セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
触れる温もりの中に
「ほら、見て颯真さん! あの子のジャンプ、三回転なんですって!」
隣に座る颯真のシャツの袖を引っ張りながら、興奮した様子で花那はイルカのショーを見ている。
以前来た時は人が多いのは苦手だと言っていたはずの花那の喜びように、颯真の方が驚きを隠せずにいた。
「ちゃんと見ているから、そんなに引っ張らなくてもいいんじゃないか?」
「あ、ごめんなさい。私ったら、つい……」
慌ててシャツから手を離した花那だが、その手の温もりが離れたことに寂しさを感じたのは颯真の方だった。
――失敗した、余計な事を言わなければよかったのかもしれない。そうすればもう少しは花那と……
そう考えた後で頭を振って無かったことにする。自分が今さらそんなことを望むなんて、あの時の花那が聞いたらどう思うだろうか。
颯真がいつも思い出すのは、あの日の……別れを切り出した時の花那だ。別れを悲しんでるのか、それとも喜んでいるのかも分からない無表情で。
――今の花那のように素直な感情を見せてくれていたら、俺達にはもっと違う未来もあったんだろうか?
悪いのが花那だけだと思っているわけじゃない。五年という契約だった関係にも関わらず、尽くしてくれる花那に安心して自分は彼女に何もしてやらなかった。
そう考えれば後悔なのか、何とも言えない苦い何かが口の中いっぱいに広がっていくようで……颯真はギュッと拳を握った。
「颯真さん、もしかして具合が悪いんですか?」
様子のおかしい颯真に気付いた花那が、彼の手に自分の手を重ねて心配そうに見上げてくる。そんな花那の行動にホッとして、颯真はゆっくりと肩の力を抜いた。