セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「何でもない、ありがとう花那」
花那が素直な感情を見せてくれるから、颯真も花那に対して素直になれる。こんな感謝の言葉の一つも、以前の花那に伝えようとはしなかった。
――こんな男だから契約期間終了と同時に別れを告げられたんだろうな。今考えればすぐに分かる事なのに……
そう反省してやり直したいと言える相手は、その記憶を失っている。そんな花那に付け込むようなことも出来ず、颯真はただ同じ所をグルグルと回っている気分だった。
「そう? じゃあ一緒に見ましょう、今からが一番の見どころみたいだし」
今の花那は颯真を疑う事もなく、その瞳で真っ直ぐに見つめて微笑んでみせる。その見つめ合いにすらテレてしまうそうで、颯真は後頭部をガリガリと掻いた。
そんな颯真の様子を見て花那は笑い、またシャツの袖を掴むとプールで飛び跳ねるイルカを見ようと誘ってくる。
その名前のように花を咲かせた柔らかな笑顔で。
「……花那のその笑顔、俺は好きだな」
「……え? 颯真さん、今なんて?」
ポツリと呟いた颯真の言葉は花那には聞こえなかったが、自分自身の言葉に颯真が一番驚いていた。
颯真は今まで誰にも【好き】だなんて言葉を使った事などなかった。そんな感情はずっと知らずに生きていくのだと、そう彼は思っていたのだから。
――俺が花那の笑顔を好き? どうしてそんな事を思ったんだ、俺は?
不思議な顔で颯真を見つめる花那に「大丈夫だ」と答え、颯真は手洗いに行くと言ってその場を離れたのだった。