セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「この曲、なんだか懐かしい。おかしいわ、私の知らない歌なのに……」
会話の少ない二人が困らないようにと、颯真はいつも花那と出掛ける時は音楽をかけていることが多かった。今日も同じよう音楽を流していると、そのうちのある曲を聴いて花那はそう呟いた。
「この歌の事? でもこれは確かに年前にヒットした曲で……」
花那の記憶にはないはずの期間、それを彼女は懐かしいと感じている。それが何を意味するのか、少しだけ颯真は不安になった。
確かに二人でこの曲を聞いたことは何度かある、しかしそれも颯真にとってはいい思い出ではなかった。大人しい花那が一度だけ感情的になった、そんな出来事を思い出してしまう。
「気のせいじゃないのか? ほら、似たような曲もたまにあるし……」
「そうかしら? なんだかこのメロディーを聞いていると少しだけ悲しい気分になるの、不思議ね」
花那の言葉に颯真はうまく返事が出来なくなる。記憶が戻っているのではなく、花那の中に残る彼女の思いがそうさせているのだと分かってしまったから。
五年間、颯真との記憶をなくしても彼女の感じた色んな気持ちは無くなっていない。
――それ程までに、俺は花那に辛い思いばかりさせていたのか? それとも感情は残せても俺の事だけは忘れてしまいたかったのかもしれない。
ショックを受けるなんて図々しいと分かっていても、花那からそんな風に思われていたのだという辛さは誤魔化せない。颯真は黙って前を見て運転に集中しているふりをした。