セカンドマリッジリング【コミカライズ原作】
「ただいま、花那。今日はいつもと何か変わったことはなかった?」
最近、夫の颯真は仕事から早く帰ってくるようになった気がする。初めの頃は自分を避けるかのように遅い時間まで家に帰ることはなかったのに、今は仕事を終えるとすぐに帰宅しているようだ。
彼はいつもただいまの後には、花那に変わったことがなかったのかを聞いてくる。それが記憶に関してのことなのだろうということは花那も何となく気付いていた。
「ごめんなさい、まだ……」
何も思い出せてはいない、そう言えば颯真はガッカリするだろうと思いながら花那は謝ることしか出来ない。
今の颯真との暮らしが幸せなほど、記憶を取り戻すのが怖くなっていた。記憶が戻ったら、この幸せな記憶は消えてしまい何も残らないのではないのかと。
けれど颯真はきっと以前の花那を望んでいるはず、そう思うと今の気持ちを彼に伝える事は出来なかった。
「気にすることはない、俺は花那がここにいてくれるだけでいいんだ」
そう言って花那の頭にそっと手を置いて撫でるような仕草をする。そんな彼の何気ない行動に花那は気持が溢れてしまうのではないかと思ってしまう。
――颯真さん、私もずっと貴方の傍にいたい。
けれどきっとそれは叶わない。そう感じている花那はそれ以上を颯真に望むことも出来ず、ただ儚げに微笑んでその気持ちを誤魔化すだけだった。