ひとつ屋根の下、憧れモテ王子は甘い愛を制御できない。
「……髪、かわいい」
「っ、」
いつものストレートヘアとは違って、緩く巻いてハーフアップにした髪を織くんがすぐに褒めてくれるから。
お世辞と分かっていても、この端麗な顔面に『かわいい』なんて言われちゃ、
私の単純な口元はすぐに緩んでしまうわけで。
「織くんの恥にならないように、と思いまして……今日はその、恐れ多くも、隣を歩くわけですし」
「なにそれ。白井さんは普段からかわいいのに」
あぁ、ダメだ。
織くんの『かわいい』にはアルコールでも入っているんじゃないかってぐらい、油断するとクラッと酔ってしまいそうになる。
まぁ、お酒なんて飲んだことないから酔っ払う感覚なんて知らないんだけど。
「スカートもいいね」
「……っ、あ、ありがとう、」
白のゆったりとしたTシャツにライトグレーのフレアロングスカート。
シンプルな格好だけど、普段パンツスタイルが多い私にしては、結構女の子らしくしたつもり。
コーデ自体は間違いないものだから、素直にお礼を言うけれど。
やっぱりいざ織くんに面と向かって褒められると、照れてしょうがない。
わかってる。
織くんが私に向ける「かわいい」は全部、好きな人への予行演習みたいなもの。
絶対に勘違いしちゃいけないのだ。