ひとつ屋根の下、憧れモテ王子は甘い愛を制御できない。


人の話を盗み聞きしてはいけない、と勉強を再開しようとシャープペンを動かしたけれど。


『はぁーー……』


という二度目の大きなため息に完全に俺の意識はそっちに向いてしまい。


その後の会話も自然と俺の耳に届いてしまった。


『初花さー、もう半年だよ?流石に……』


『うぅ……わかってるよ……。私だって忘れようって気持ちはあるよ。でも、あんなあからさまに仲良さげにしてるところ見ちゃったらさー』


『まぁねー。広夢くん、すごく楽しそうだったもんね。デート』


『うっ。(あきら)ちゃん容赦なさすぎ。もっと言葉を選んでよ』


『いやもうあんな男さっさと忘れなよ〜!振り向いてくれない男のこと考えてる時間なんてもったいないよ。いい男はいくらでもいる!恋の傷を癒すのもまた新しい恋っ』


向こうは話すのに真剣でこっちのことなんて見向きもしない。


なるほど。


……この子、初花さん、という人は、好きな人に振られたってことで良いのかな。
大変だな……。


と、項垂れたままの彼女をチラッと見た俺は、この時はまだそんな風に思うだけだった。

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