ひとつ屋根の下、憧れモテ王子は甘い愛を制御できない。
これじゃダメだと、深呼吸して口を開く。
「織くん、さっきはありがとうね!お菓子とか飲み物!みんなもすっごい喜んでた。ほんと、織くんは優しくて気遣いもできてすごいね!山口くんとは大違いだよ!あ、山口くんって廊下で一緒にいた人なんだけど……」
「全然」
差し入れのお礼を言って、山口くんの話をしようとしたら織くんが遮るようにそう言った。
「え?」
「俺、全然優しくなんかないよ」
え。どこがだ。
織くんは優しさの塊じゃないか。
「いつだって中は真っ黒だ」
「ま、真っ黒って……」
「優しさで会いにいったんじゃないってこと」
そう言った織くんが、私の手を取って握った。
「お、織くん!?」
な、なにこれ……。
「白井さんが他の人と楽しそうに話してるの見て、モヤモヤしたから」
「……っ」
「俺といるのに、他の男の話しないで」
織くんの目が、お家で映画鑑賞した時に迫って来た時と同じ目をしている。
あの時は、好きな人に触れるための練習、そう言っていた。
なのに、山口くんやめぐちゃんたちからあんなことを言われたせいか、あの時よりもうんと顔が熱くてしょうがない。
……織くん、なんで、そんなこと言うの?
織くんは戸惑っている私をよそに、手を握ったまま歩き出した。