群青に沈む
そしてその後、朝葉がいなくなったバスケ部は、以前のような笑い声はほとんど聞こえなくなっていた。
「あのさぁ、二年サボりすぎじゃない?」
三年からの当たりがキツくなったのは気のせいではないと思う。
「若菜ちゃんもさ、次の部長やりたいならちゃんとしなよ」
「え、私やりたいとか一度も言ったことないんですけど」
気の強い若菜が反抗的な目を先輩に向けると、空気が一段と重くなる。
ああもう、やめてほしいと嫌な汗が背筋に伝う。
若菜はいつもこうだ。すぐに感情的になって、後先考えない。
三年生はもう少しで引退なのだから、うまくやり過ごせばいいのに、そうする気もないのだ。
「じゃあ、誰がやるか決まってんの?」
先輩が苛立った表情で見下ろすと、若菜は面倒臭そうにため息を吐いて横目で私を見てきた。
「杏里でいいんじゃないですか?」
「え!? あたしは……」
思わす声を上げてしまうと、若菜が目を細める。
「だって私塾あるから残れないし、杏里はなんにもないから時間あるよね。ね、杏里」
有無を言わさない作り笑顔に息を飲む。喉に石のような硬いものが詰まったような感覚がして息苦しくなる。
朝葉がいなくなったら、やっぱり私の番だった。
先輩はなんとも言えない顔をして、短く息を吐く。おそらくは私が望んでいないことも察したのだと思う。
そして歪んだ笑みを私に向けてくる。
「うけるね」
たった一言の裏側の意味を、すぐに理解した。
今まで一緒になって朝葉を追い詰めていたのに、いなくなったら次は仲間内から身代わりが生まれる。
仲良くしていたくせに、見捨てられたような現状に対して、先輩は薄っぺらい関係で馬鹿馬鹿しいねと言ったのだろう。
傷ついたと同時に、酷く納得してしまう。
私たちの関係は、虚しいほどに都合が良く、ちょっとしたことでオセロみたいにひっくり返る。