ひと夏の、
夜に一人暮らしの男の家に上がるなんて、と他の家なら怒られるのだろう。
でも私の家は、私にこれっぽっちの興味も示さなかった。


普通の家庭がどんな家庭かは分からないけど、少なくとも私の家のことを普通の家庭とは呼ばないんだろうな、ということだけは分かった。


私にとって世の中で一番怖いのは、雷でも幽霊でもなく無関心だった。


遼介くんは家出少女の私に家に帰りなさい、とか、親が心配するだろう、とか、偉いオトナの人たちが言う常套句をひと言も言ったことがない。
悔しそうに笑って、また部屋が汚くなると文句を言いながら私を部屋に上げてくれた。


その顔を見る度に、私は少しの後ろめたさを感じ、この人にちゃんとした私で会いたかったと泣きそうになった。


私は膝頭に額をつけ、遼介くん、と呼びかけた。
食器を洗う音の中に、遼介くんの「んー?」という声が混じる。

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