ひと夏の、
朔良はそんな私を知ってか知らずか、私からリュックを取り上げる。
驚いて顔を上げると、朔良は帰んぞと言った。


「家まで送るから」

「でも遊園地」

「文句言うな」


朔良は私を立たせようとする。
あまりの剣幕だったから、私はそれに流されかけて──途中でその手を払った。


「……やだ」

「芽衣」


諭すように、呆れたように、朔良が名前を呼ぶ。


「別にアトラクション乗らなくていい。このままベンチで大人しくしてるから、あとちょっとだけここにいようよ」

「お前熱あるんだろ」

「そうだけど、でも」

「芽衣」


今度は、さっきよりも怒っていた。
唇を噛むと、朔良は私の腕をもう一度強く引いた。


「……だって」


朔良が振り向く。
その目が微かに見開かれる。

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