ひと夏の、
でも貴方は、その鉢こそが錯覚なのだと私に教えてくれました。誰も決して他の人生を脅かしてはならないのだと、貴方は静かに言いました。
私はその時初めて、恋というものを知ったのです。


貴方が涼し気な目を伏せる時、波のような感情が心の中で弾けました。
貴方が真剣な顔で小説の解説をしてくれる時、私は貴方の顔ばかり眺めていました。
貴方が私の名前を呼ぶ時、幸せとは熟れた桃を齧った時のような味がするのだと泣きたくなりました。


貴方を、お慕い申し上げておりました。

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