キミに一条の幸福を
「雨が来るな」
わたあめのように濃い白が立ち上がった空。
そこに暗く影を落とす分厚い雲を見て、彼は言った。
***
「っ、ねぇ! どこまで登るの!?」
まだまだ目の前に連なる石段に、疲弊した足が悲鳴を上げている。
先を登っている無愛想な幼馴染に叫んで問うた。
「……てっぺんまでだよ」
幼馴染ゆえの容赦のなさか。
彼は少し振り返り淡々とそれだけを告げた。
(大体どうして私がこいつについて行かなきゃならないのよ!?)
最近いい事が無い芽衣子は、心の内で悪態をつく。
雨が来ると呟いた幼馴染・晴樹は、丁度一緒に帰っていた芽衣子に「ちょっと付き合え」と告げてここまで連れて来た。
まさか近くの高台にある神社の、何十段も続く石段を登るとは思わなかった芽衣子は、そのときは仕方ないなと思ってついて来たのだ。
「これ、絶対……ちょっとじゃ……ないでしょ……!?」
一段登る度に、踏みつける石に不満を押し付けるように呟いた。
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