キミに一条の幸福を
 不愛想なのに、ここで寄り添うような言い方はずるいと思う。

 これが自分の努力を何も知らない相手だったら『知らないくせに適当なこと言うな!』って怒っていたかもしれない。

 だが、晴樹は芽衣子の作品の一番の読者だった。


 完成したら一番に読んでくれて、一言だけど感想もくれる。

 誤字脱字があれば指摘してくれて、矛盾点があれば一緒に調べてくれる。


 そんな相手からの寄り添う言葉に、涙が滲んだ。

「え? ちょっ、悪い。泣かせちまったか?」

 不愛想で淡々と話す晴樹が慌て始める。

 そうだった、昔からこいつは自分が泣くと弱いんだった。


 そんなことを思い出しながら「泣いてない」と主張する。

「雨が顔に当たっただけだよ」

「……そうか?」

 信じたかどうかは分からなかったが、晴樹はそれ以上追及してこなかった。



 しばらくして落ち着いても、雨はまだ降っている。

「……これ、止むのかな?」

 少し不安になって呟くと、晴樹が「止むよ」と答える。

「夕立だからな」

「そっか」

 そんな会話をして、また二人黙り込んでしまう。


< 4 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop