エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
真っ暗な室内に、離婚届の用紙が置かれている嫌な想像をしてしまった。

(躊躇しても、すでに結果は用意されているんだ)

友里を失うと恐れる心に言い聞かせ、雅樹は思い切ってドアを開けた。

すると、明るい玄関に、友里がスリッパをパタパタと鳴らして駆けてきた。

ネグリジェ姿ではなく、昼間に見たワンピースのままで、「お帰りなさい。お疲れ様でした」と嬉しそうな笑みを浮かべている。

「ただいま……」

(待っていてくれたのか。ということは、友里の出した結論は……)

期待を込めて問いかける前に、友里が雅樹の腕を引っ張った。

「雅樹さん、リビングに入ってください」

そんなに急いでなにがあるのかと思った雅樹は、リビングに足を踏み入れて目を見開いた。

カラフルなガーランドや風船、生花でパーティーのような飾りつけがなされ、ダイニングテーブルには手作りのご馳走が並んでいる。

「これは……」

隣に振り向けば、驚く雅樹を友里がウフフと笑って見ていた。

「お疲れでしょうけど、少しだけお祝いをしませんか? 今日は私たちにとって大切な日ですから」

「友里……」

< 105 / 121 >

この作品をシェア

pagetop