エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
なるべく雅樹の負担にならないようにと思っていたが、頼った方が雅樹の気持ちとしても楽なようだ。

それがわかって、友里は口にできそうなものをお願いする。

「それじゃあ、桃のジュースが飲みたいです」

子供の頃、友里が熱を出すと、今は亡き母が飲ませてくれた。

優しい思い出の詰まったそれなら、飲めそうな気がした。

「すぐ買ってくるよ」

雅樹の口角は上がり、張り切っている様子。

けれども目の下にうっすらとクマができており、疲労は隠せない。

(昨夜の帰宅は一時過ぎ。激務の後、家事や私の世話までしてくれて、疲れてるよね……)

立ち上がろうとした雅樹の腕を、友里は掴んだ。

「なに?」

「あの、やっぱり、ジュースを買いに行くより、ここにいてください。雅樹さんにそばにいてほしいんです。しばらく別のベッドだったから、今日は一緒にお昼寝してくれませんか?」

それは雅樹を休ませたいという友里の気遣いである。

けれども雅樹はそれに気づかず、友里が寂しがっていると思ったようだ。

「おやすいごようだ」

友里が体をずらしてスペースを作ると、雅樹はそこに横になり、友里の頭の下に腕を入れた。

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