エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
父は今日も仕事のはずで、面会は明日にすると言っていたのに、我慢できずに病院を抜け出してきたのかもしれない。

そんな父の気持ちはありがたいが、友里としては真っ先に雅樹に会いたかった。

思わず眉尻を下げたら、父の後ろから雅樹が姿を現した。

駆け寄ろうとする父の肩を慌てて掴んで止めている。

「理事長先生、いえ、お父さん。友里と話すのを五分待ってください。最初に触れるのは夫の私です」

「おお、そうか。そうだよな。すまん、すまん。廊下で待ってる。五分だけな……」

恰幅のいい父が寂しげに部屋を出ていって、友里は申し訳ないと思いつつもホッとする。

雅樹はベッドサイドに立って、友里の手をそっと握った。

「お疲れ様。ありがとう。問題なく終わったと聞いたよ。痛みはどう?」

「今はまだ麻酔で下半身の感覚がないんです。痛みも感じません」

麻酔は徐々に切れてくるが、痛み止めが持続注入される管が背中に入っている。

それが抜けるのが明日ということで、痛みとの闘いはそれからだ。

専門は違えど、外科医である雅樹に説明は不要である。

頷いて、「痛みのピークは二日後だろう」と教えてくれた。

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