エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
屋上はフェンスで囲われ、ベンチや花の咲くプランターがいくつも置かれているが、暑いためか、友里たち以外に誰もいなかった。

突き出た出入り口を壁沿いに半周すれば、友里を待っている人がいた。

「お疲れ」

友里と同じ制服を着た彼女は、木下真由美(きのしたまゆみ)。

消化器内科の病棟クラークで、友里よりひとつ年上の二十五歳だ。

こげ茶色のショートボブの彼女は、この病院で初めてできた友人である。

日陰のベンチに座っている真由美が、「暑いね。今日もここで大丈夫?」と気さくに声をかけてくれた。

「真由美さん――」と言いかけて、友里は「真由美」と言い直す。

友里が理事長の娘と知っていても、最初からフレンドリーに接してくれた彼女には壁を作りたくない。

「うん。ここ、人が来ないからくつろげるよね」

同じように砕けた口調で返した友里は、真由美の隣に腰を下ろした。

「そうそう。病棟の休憩室は、休んだ気がしなくて私も嫌」

「真由美なら、誰とでもうまく付き合えそうなのに」

まだ知り合って三日目だが、真由美は気さくで朗らかで、相手の懐にスッと自然に入り込める性格だと友里は感じていた。

< 15 / 121 >

この作品をシェア

pagetop