エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
コミュニケーション能力が高い彼女でも苦手な人がいるのかと思い、首を傾げたら、誰もいないというのに真由美が声を潜めた。

「表面上は、うまくやってるよ。嫌われないように、いつもニコニコしてる。だから疲れるの。友里には私のぼやきを聞かれちゃったからね。気楽に話させてもらうわ。愚痴も聞いて」

一昨日のお昼休みに、屋上に来た友里は、真由美の大きな独り言を聞いた。

『検査に間に合わなかったのは私の連絡ミスじゃないのに。あの人はいっつも人のせいにして、もう、嫌になる!』

それがきっかけで、こうして仲良くなれたので、喜んで愚痴の聞き役になりたいと友里は思っていた。

真由美はコンビニのパンを食べ、友里は自宅で作ってきたお弁当の包みを広げながら話す。

消化器内科病棟の苦手な職員の名を数人あげて不満をもらした真由美は、「聞いてもらってスッキリ」と晴れやかに笑った。

そして「友里は?」と聞く。

「私も聞くよ、友里の愚痴。苦手な人、いるでしょ?」

友里はまだ包みを開いただけで、お弁当箱の蓋も開けていない。

まずは水筒のお茶を飲んで考える。

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