エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む

（午前中は陰口を聞いてしまったけど、看護師さんたちが苦手と言えるほど、まだよく知らないし……）

特にいないと答えようとして、雅樹の顔が浮かんだ。

「香坂先生が、ちょっと怖い、かな……」

友里は気が弱いことを自覚しているので、昔から、きっぱりはっきり物を言う人に苦手意識を持ってしまう。

理事長室では雅樹が、友里の父に不遜な物言いをしていてハラハラさせられた。

あの時以外は会話をしていないけれど、他のスタッフに対しても彼は不愛想で、必要事項以外口にしない雰囲気であった。

「叱られたわけじゃないけど、なんとなく……」

尻切れにそう言えば、真由美に驚かれる。

「香坂先生が好きっていう女性はたくさんいるけど、嫌いというのは初めて聞いた」

「あ、嫌いじゃないよ。怖い人なのかな、と思っているだけで」

「ふーん、それなら勘違いだよ。香坂先生は優しいって、手術部の看護師さんが言ってた」

ある時の手術中、看護師が緊張して器具を落としてしまったことがあったそうだ。