エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
『なにやってんだ!』と怒鳴った他の医師を、『大きな声を出さないでください』と諫めた雅樹は、ミスをした看護師にこう言ってフォローしたという。

『大丈夫。手術はうまくいっているからなにも問題はない。落ち着いて、新しいものを持ってきて』

友里は、目を瞬かせる。

どちらかといえば、怒鳴る方のタイプだと勝手に思っていたからだ。

「そうなの……」

「患者さんの評判もいいらしいよ。術前の説明の時に、患者さんと家族が納得できるまで、一時間でも二時間でも付き合ってくれるんだって。術前は特に不安だろうからって」

「先生たち、すごく忙しそうなのに、すごいね……」

友里の中の雅樹のイメージが変わろうとしている。

けれども実際に彼の優しさに触れたわけではないので、見直すとまではいかない。

(同じ病棟に所属していても、香坂先生とは接点が薄いから、怖くても優しくても、私には関係ないのかも……)

雅樹の話が終わって、友里はやっとお弁当の蓋を開けた。

すると真由美が感嘆の声を上げた。

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