エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
気の弱いお嬢様
目の前の白いドアには、理事長室というプレートがついている。
友里は胸に手をあて、落ち着こうと深呼吸した。
(言わないと、なにも変えられない……)
清楚な美人顔の唇を真一文字に引き結び、三回ノックする。
すると中から、「友里か? 入りなさい」という低い声がした。
「はい」
返事をする声に、妙に力がこもってしまう。
ドアを開けると、そこは二十畳ほどの広さの絨毯敷きの部屋だ。
十五人ほど座れそうなコの字形のソファセットが手前にあり、奥のブラインドを下ろした窓際に執務机がある。
そこにはスーツ姿で恰幅のいい七十一歳の男性が、革張りの椅子に腰を据え、書類を手にしていた。
堂島幸雄(どうじまゆきお)。
この堂島記念病院の理事長であり、友里の父親でもある。
電話連絡してから来たけれど、「お仕事中にごめんなさい」と一応謝ってから、歩み寄った。
老眼鏡を外して机上に置いた父親が、目の前に立つ娘の緊張した顔を見る。
「いや、構わんよ。最近は会合続きで、まともに帰れなかったからな。家でお前と話す時間も取れなかった」
友里は夏物の白い半そでジャケットの裾を握りしめた。
その下の花柄のフレアスカートが、微かに揺れている。
威圧感ある父の眼差しには慣れていても、今日は緊張している。