エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
愛もないのに
秋が過ぎ冬になり、年が明けてから二か月が経つ。
病棟クラークとして半年間の経験を積んだ友里は、一人前の働きができるようになっていた。
昼休憩までもう少しという時間、カウンター前に座った友里が、パソコンに入力作業をしていると、内線電話が鳴った。
ワンコールで反射的に受話器に手が伸びる。
「はい、脳外クラークです」
それは手術部の看護師からの連絡で、用件を聞いて電話を切った友里は、ナースステーション内にいる看護師に呼びかけた。
「オペ室からの連絡です。山渕(やまぶち)さんのお迎えをお願いします。シリンジポンプを一台使ったので、代わりのものを下ろしてくださいとのことです」
手術が終わった患者は、一時間ほどオペ室横のリカバリー室で観察し、その後に問題がなければ病棟に戻ってくる。
シリンジポンプとは、注射器に入った薬剤を、一定速、一定量、ポンプの力で患者の体内に送り込む医療機器だ。