エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「はい、楽しく働いています。クラーク業務はひとりでこなせるようになりました。今日は看護師さんに、助かると言ってもらえて……」

控えめな友里が、仕事ができることをアピールしたのは、辞めさせられると危惧してのことだ。

最初は働くことを禁止されていたので、半年間、経験させてやったのだから、もういいだろうと言われそうな気がしていた。

けれども父が意外なことを言う。

「そうか。楽しいか。働かせて正解だったな」

(え……わざわざそれを話すために呼んだの?)

こわばっていた頬が緩む。

ホッとして緊張を解いた友里であったが、すぐに雲行きが怪しくなる。

「この半年間で、香坂先生のことがよくわかっただろう。優秀な脳外科医だと思わないか?」

「は、はい。思います……」

「お前もそう思うか。それはよかった。あれほどの男は他にいない。お父さんはな、香坂先生にこの病院を継いでもらいたいと考えている。幸則(ゆきのり)はあてにならんからな」

(香坂先生を、お兄ちゃんの代わりに……?)

幸則とはふたり兄妹で、十一歳離れている。

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