エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
跡継ぎにするべく、父は兄に英才教育を施して医師免許を取得させたが、ある時、反旗を翻された。

『医師よりやりたいことがある。ロケットをつくりたいんだ』

母親の死後、幸則はそう言って家を出てしまったのだ。

アメリカに渡った幸則は、大学院で宇宙工学を学び、本当にNASAに就職したから、友里は驚いて感心し、尊敬もしている。

父は『勘当だ。二度とうちの敷居を跨がせない』と怒っているので、幸則とは隠れてこっそりと連絡を取り合っていた。

息子の名を出して、眉間に深い皺を刻む父。

まだ当分、許す気はなさそうだ。

友里は委縮して、恐々と父の顔色を窺う。

友里が大人になっても父に反抗できないのは、元からの気弱さだけでなく、兄のことも原因かもしれない。

幸則に出ていかれた父は、口では強気なことを言っても、肩を落としていた。

兄の夢を応援する一方で父を哀れに感じた友里は、せめて自分は言う通りにしようと思ったのだ。

苦虫を噛み潰したように顔をしかめていた父だが、ため息をつくと、気を取り直したように話を先に進める。

「それでだ。香坂先生にお前を嫁にやることにした」

「……え?」

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