エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
聞き間違えだろうかと、キョトンとしてしまった。

「お父さん、今、なんて……?」

「香坂先生と結婚させてやる。お前の将来も安泰だ。よかったな」

「ま、待ってください! 私は香坂先生と、あまりお話したこともないんです」

「これからたくさん話せばいいだろう。夫婦となるんだから、家でゆっくりと」

「お父さん、私は――」

膝を詰めようとしたら、「友里」と厳しい声で呼ばれた。

ビクッと肩を揺らした友里は、それ以上なにも言えなくなってしまう。

子供の頃から染みついた癖のようなもので、意思とは無関係に反抗できなくなってしまうのだ。

「これはお前のためでもある。あれ以上の男が他にいるというのなら、連れて来い」

(そういうことじゃないのに……)

雅樹とは挨拶と仕事上の会話を少し交わした程度の関係なので、知り合って半年経っても、怖いと感じた第一印象を完全には崩せずにいる。

ましてや恋愛感情を抱いたこともなく、今後も好きになれるとは思えない。

そしてそれは、雅樹の側も同じではないだろうか。

友里は震えそうな声で、父に問う。

「香坂先生は、承知しているんですか……?」

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