エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
父が勝手に望んでいるだけではないかと思いたかった。

娘を嫁にもらってくれと頼まれても、断ってくれるだろうと。

けれども、父が微笑して頷いた。

「もちろんだ。お前と結婚できることを喜んでいたぞ」

(そんなの、嘘よ……)

クールで不愛想な雅樹の顔を思い浮かべる。

友里にまったく興味がなさそうなのに、喜ぶはずがない。

もし本当に喜んでいるとするのなら、それはこの病院の後継者になれることのみについてだろう。

父に反抗できず、かといって承諾もできずに、友里は困り顔で俯いた。

すると話を切り上げられてしまう。

「この後、来客があるんだ。今日のところは、話は終わりだ。お前は帰りなさい」

「はい……」

理事長室を出されても、友里はしばらくその場から動けずにいる。

(どうしよう。このままでは、本当に結婚させられてしまう……)

回避方法を思案して、ハッとひらめいた。

友里は身をひるがえし、廊下を走る。

階段を駆け上がって、脳神経外科病棟に戻ろうとしていた。

父を相手に自分が反対するのは難しいので、雅樹から断ってもらおうと思いついたのだ。

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