エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
曇りガラスから見える外は、夜のように真っ暗だ。

雅樹は白衣のポケットに両手を入れて、窓辺に背を預けるようにして立っている。

友里は閉めたドア前にいて、彼との距離は三メートルほど。

「座ったら?」と無表情にソファを勧めた彼に、「ここで結構です……」と気弱な声で答えた。

警戒するとまでいかないが、ふたりきりの緊張感を少しでも和らげたくて、なるべくすぐに逃げられる場所にいたかったのだ。

友里の気持ちを汲んでくれたかどうかはわからないが、「そう」と素っ気ないひと言で終わらせた雅樹は、本題に入る。

「理事長が引退したのち、この病院の経営を譲り受けるという話と、君との結婚については、三日前に理事長室で話した」

「えっ……」

三日前から知っていたのに、今日まで平然と過ごしていた彼に驚いていた。

友里はまじまじと雅樹の顔を見てしまったが、すぐに視線を逸らした。

少しも動じることなく、見返してくる冷静な瞳には、父とは違う迫力があった。

汗ばむ両手を胸の前で握り合わせた友里は、視線を床に落としてお願いする。

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