エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
「あの、断っていただけませんか? 父のことですからきっと断りにくい雰囲気で言ったんだと思うんです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

数秒の間が空いたので、無視されたのではないかと友里は顔を上げた。

すると彼がじっとこちらを見つめていたため、鼓動が跳ねた。

相変わらずの無表情さだが、その目がどこか悲しげに見える。

(気のせい……?)

彼がなにを思うのかを知りたくて、半歩前に踏み出したら、雅樹が口を開いた。

「君は俺が嫌いなのか?」

「そ、そんなことはないです。でも、結婚は……。お互いに愛情がないのに、おかしいと思うんです」

「俺は君が好きだが」

サラリと告白されて、友里は驚くよりも眉を寄せた。

これまでの希薄な関係を思えば、到底信じることのできない言葉である。

言い方も淡白で、本心からだとは思えなかった。

(見え透いた嘘をつかなくても。そんなにこの病院が欲しいの……?)

どうやら雅樹から断る気はなさそうなので、友里は困り顔になる。

すると雅樹が、窓辺から離れてゆっくりと近づいてきた。

一歩の距離を置いて足を止めた彼に、友里は思わず身構える。

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