エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(近づかれると、怖い……)

至近距離から淡白な声が降ってくる。

「君が少しも俺に興味がないのはわかった。それならこうしよう。結婚して半年間はジャッジ期間。俺の様子を見て夫に相応しいかを考えてほしい。半年後に俺を好きになっていなかったら、君の一存で離婚していい」

友里は目を丸くして聞いている。

婚姻届を書く際に離婚届も一緒に書き、それを友里が預かっておく。半年後に役所に出すも出さないも友里の自由……という提案がなされた。

「どう?」と問うクールな瞳に、考え込む友里の顔が映っている。

(結婚しても離婚できるなら……)

雅樹は忙しい。きっと自宅に帰っている時間は少ないのではないだろうか。

半年間があっという間に過ぎそうな気がする。

そもそも雅樹に結婚を断る意思がなく、友里からは父に意見できないのならば、彼の提案を受け入れるしか方法がない。

友里は小さく頷いた。

「わかりました。よろしくお願いします……」

雅樹の口角がわずかに上がる。

微笑んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

「結婚指輪を今度一緒に買いにいこう」

< 32 / 121 >

この作品をシェア

pagetop