エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(一緒に? 香坂先生なら、好きなものを買ってきなと言うかと思った。ううん、指輪がなくても気にしないタイプに見えるけど……)

友里が目を瞬かせたら、雅樹がポケットから右手を引き抜いた。

その手を友里の頬に向けて伸ばすから、驚いた友里はあからさまに肩をビクつかせてしまう。

その時、雅樹の白衣の胸ポケットで携帯電話が鳴った。

医師と看護師、一部の技師が院内で使うためのものだ。

雅樹は息をつき、友里に横顔を向けて電話に出た。

「香坂です。――受けてください。倒れた時間は? バイタルも教えてください。――自発呼吸がないんですか? 救急隊と直接話したいので電話を繋げてください」

今日は救急当番日であると友里は思い出した。

この病院に常設の救命救急センターはないけれど、当番日だけ重症患者も受け入れている。

先ほど友里の頬に触れようとした雅樹の手が、また前に伸ばされた。

(なにするの……?)

けれども彼が掴んだのは、ドアノブだ。

友里が慌てて横にずれると、搬送されてくる患者の容態を電話で聞きながら、雅樹がドアを開けて廊下へと出ていった。

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