エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
身長は百八十を超えているだろう。

手足がスラリと長く、姿勢がいい。

斜めに額にかかる黒髪の前髪が、サラリと揺れた。

その下の切れ長の目は、少々冷たい雰囲気である。

(お医者様……よね? 綺麗な顔立ちの人。でも、厳しそう……)

友里は邪魔にならないよう、横にずれて場所を空けた。

そこに彼が立つ。

「医師会のことか?」と問う父に、彼は端的に答える。

「三日後にオペ予定の患者のことです。術式が決まりましたのでご確認を」

ファイルを机上に置いて、彼は「では」と背を向けようとする。

それを父が止めた。

「香坂(こうさか)先生、ちょうどいい。君の病棟に新しく配属するクラークを紹介しよう。娘の友里だ」

ふたりの視線が急に自分に向いたので、友里の緊張がぶり返す。

「堂島友里です。どうぞよろしくお願いします」と慌てて挨拶し、頭を下げた。

「脳外科医の香坂雅樹(まさき)です。クラークの経験は?」

「すみません、ありません」

「謝らなくていい。俺はナースステーション内にほとんどいないから、悪いが面倒をみてやれない」

ニコリともせず、そう言った彼は、視線を父に戻した。

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