エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
すると父がクックと笑う。

「娘は美人だろ。面倒をみたいという気持ちが、少しはあっての発言と受けとっていいのか?」

「どのような解釈でも。実際に関りが薄いのは変わりませんので」

友里は目を見張った。

娘の自分でさえ委縮して意見しにくいというのに、雅樹は雇い主である父に、平然とした態度でぞんざいな口の利き方をする。

父が怒り出さないかとハラハラしたが、機嫌のよさそうな声が聞こえた。

「香坂先生は相変わらず愛想がないな。だが、ごまをする奴らより信用できる。私は君の能力を高く評価しているんだよ」

「そうですか。話は以上ですか? もうすぐオペが始まるので、これで失礼します」

褒められても少しも喜ばず、お礼さえ言わずに、雅樹は白衣の裾を翻して颯爽とドアに向かった。

友里がその背を呆気に取られて見送ったら、父に呼ばれる。

「友里」

「は、はい」

「香坂先生はいい男だろ。海外からもオペのオファーがある優秀な脳外科医だ。三十四歳でお前との歳の差もちょうどいい。恋人もいないようだぞ。どうだ?」

「え……?」

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