エリート脳外科医は政略妻に愛の証を刻み込む
(雅樹さんが約束を破って華衣先生に教えたわけじゃなかったんだ。それがわかっただけでも嬉しい……)

友里が微笑んでも、雅樹は詫びる。

「友里の悩みにもっと早く気づいてあげるべきだった。そうすればもっと早く対処ができたはずなのに。つらかっただろ? すまなかった。俺は察しのいい男じゃない。またこういうことがあったら、すぐに教えてくれ。陰口もだ」

「きっともう大丈夫です」

雅樹の注意のお陰で、看護師たちが挨拶を返してくれたことを教えた。

晴れやかな笑顔を向けたら、急に抱きしめられ、友里の鼓動が跳ねた。

「言うと約束してくれ。心配で目が離せなくなる」

頼もしい両腕と広い胸。

すっかり聞きなれた淡白な声には、吐息が交じり、友里の耳をゾクリとくすぐる。

「妻を守れない夫にはなりたくない」

「あ……」

ドキドキと鼓動が高鳴るのは、雅樹に恋をしているからだ。

嬉しい反面、彼に同じように想われている自信がないので胸が痛い。

(もうすぐ結婚して半年。決断しなければならない日が来る。雅樹さんと離れたくないけど、愛されていないのに結婚生活を続けるのも悲しい……)

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