何度でも、君に恋をする。
恋をした。
骨折をして、病院に行った帰り。
強い風が吹いて、とある部屋から何枚か紙が飛んできた。
「……あ」
固定された左腕に気を遣いながら、走って紙を拾いにいく。
その紙にはあらゆる少女のイラストが描いてあった。
全然下手ではなく、むしろとても上手かった。
一体誰が描いたのだろう、と少し興味をもっていると、ガラララッ、と激しい音を立てて半開きだった扉が完全に開いた。
反射的に見上げると、青緑色の病院服を着た、長い髪の女の子が僕を見下ろしていた。
左の髪を水色のピンで押さえていて、左の腕には包帯を巻いている。
そして、その顔には全く表情が無かった。
ぼーっとその女の子を見つめていると、女の子はそっと目を逸らし、僕の持っている紙を指差した。
『……それ、返してくれるかな』
「これ、君の?」
訊ねると、微かに頷く女の子。
慌てて絵の描いてある紙を拾い集めると、女の子に差し出した。
女の子はそれをむしるように受け取り、背を向けた。
「どーもありがと」
なんだか気になって、僕は後ろ手に閉められようとしていた扉を手で押さえた。
『⁉︎』
びっくりしたように振り向く女の子に僕は叫んだ。
「君、なんていうの?」
『………何』
「僕、小林流星っていうんだ」
『気持ち悪いんだけど。早くどっか行ってよ』
心底嫌そうな顔をして扉を閉めようとする女の子。
全力で扉を押さえる。
無言の攻防が一分ほど続いて、彼女は痺れを切らしたように僕の足を蹴ると、扉を閉めた。
「っつぅ……」
しゃがみ込み、左足を押さえる。
女の子なのにこんなに力が強いなんて………。
『そんなに私の名前が知りたいならネームプレート見ればいいでしょ!!』
病室の中から、くぐもった叫ぶ声。
ネームプレート…?
「あ!」
そうだ、病室には患者さんの名前が書いてあるネームプレートがあるはず…。
僕は立ち上がり、ネームプレートを凝視した。
「桜庭彩乃…」
無表情の顔、長い髪、ほっそりとした体。繊細なタッチのイラスト。怒ったような低い声。
僕はその日、一つ年上の少女に恋をした。