5時からヒロイン
「乾杯!!」

グラスワインで乾杯をしようと弥生が言ったけど、私がボトルで飲むと言い張って、甘口の赤ワインがドンとテーブルに置かれた。

「飲むわよ」
「胃は大丈夫なの?」
「十分労わった」

入院してから今までずっと禁酒をしていた。もともとお酒が強くないから、飲めない期間があっても、辛くはなかった。お酒のトラブルで今にいたるから、飲みすぎには中が必要。

「今日はおごらないわよ」
「わかってるわよ」

怒りマックスの私は、おごるほどの心の余裕はない。
マコのおすすめだというスペインバルの店は、カウンター席と丸い小さなテーブルで座ってじっくり飲む席があった。
カウンター席は一人でさっと飲んで帰る人が多く、じっくり飲みたい派は座っている感じだ。ワイワイと賑わっている店内は活気がある。
お酒が弱いから飲み屋は詳しくないけど、内装は凝っていて本当にスペインにいるみたい。テーブルが小さいのに生ハム、クロケッタ、トルティージャと定番料理を頼んでどんどん口に運ぶ。

「好きだから許せない」
「好きだから許しちゃう」
「別れても好きな人」
「何言ってんのよ、演歌のタイトルじゃあるまいし」

揺れ動く女心を分かってほしい。自分でも未練がましいと思っているけど、7年という長い年月を想いを寄せていた人だ。そう簡単に嫌いになれるはずがない。

「私はさあ、噛めば噛むほど味が出るいい女なわけよ。だからこんなに短い期間で切ってもいいような女じゃないのよ、それなのにあんなぴらぴらした洋服を着ている女がいいわけ?」
「別にぴらぴらが好きなわけじゃないと思うけど?」

相変わらずバクバク食べながら冷静に物をいうマコ。

「なによ、別れたくせに」
「私は自分にとって有益な人と付き合うだけ。無益な人と付き合っていたって意味ないじゃん」
「私マコと同意見」

弥生までマコと同意見だった。

「ずっと一途に思い続けて来た人が彼氏になって、こんなに幸せなことはないのに。ほかの男に目もくれずにずっと見つめてきたのよ? あんまりだわ」

酒が弱いはずの私だけど、どんどんワインが入っていく。甘くて口当たりがいい、まるでジュースみたい。

「おかわり」
「ボトルにする?」
「うん」

違う銘柄のワインを頼んで、盛り上がる。マコはどんどん料理を頼む。

「スカートのホックを外したい」

お腹がパンパンでウエストがきつい。ジャケットを着ているからホックを外してもばれないだろうと、そっとホックを外す。それでもどんどん料理がお腹に入って行くって、飲んでるからなのかな。

「沙耶はちょっと変わってるけど、選ぶ側の女なのになんで選ばれる側に回るのよ」
「それは言えてる。少し風変りだけど、いい女だもんね」


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