5時からヒロイン
「しゃ、しゃちょうさん?」
とっさに外人の真似をしてみたけど、笑わない。
「何がしゃちょうさんだ。帰るぞ」
「いや~」
私は女子会を楽しんでいるんだし、仕事じゃないのに偉そうに指示しないでよ。今まで出来なかった女子の時間を取り返している最中に、雰囲気を壊すなんて許せない。
「ちょっと沙耶」
「何よ」
「帰ったほうがいいと思うけどなぁ」
社長を前にして弥生は人が変わったように言う。女の友情なんてやっぱり薄情なのか。
「沙耶、どうぞお帰り下さい」
「マコの裏切者」
絶対に素直に言うことなんか聞かないと、席を立ちあがるとふらふらと視界が揺れた。
そのまま立っていることが出来ずに、腰が抜けたようにすとんと椅子に座る。
「ワインは悪酔いするんだってば」
弥生は慌てたように言った。
「それ以上飲んだら後が大変だぞ」
過去のことがあるからか心配はしてくれる。
「いいんです、私はこれからこの女子達とナンパをしに行く予定なんです。ナンパした男に介抱してもらうからいいんです」
「行きませんよ」
「マコ! なんですって!?」
確かにナンパなんかしないけど、合わせることもしないでしらっと裏切りやがった。
「沙耶はもらってく。あなたたちも帰りなさい」
「は~い」
は~い? 頭のてっぺんから声出しちゃって、なにがは~いよ。
「帰るぞ」
「嫌だってば!」
といっても、千鳥足になっている私には、抵抗する力もない。羽交い絞めみたいにして椅子から降ろされると、そのままずるずると店を引きずられるようにして出された。
「帰らない!」
「帰るんだ」
「べー」
この際だから大騒ぎをしてやる。
「沙耶、ワインボトルを離して。さ、ほれ、渡しなさい」
心配して出てきてくれたマコと弥生。
「いや~」
「沙耶、離しなさい。割れたらケガをしてしまうから」
「べ~、べ~、べ~だ」
今度は優しさ作戦にでたのね。その手にはのりません。
「沙耶……」
ふふふ、とうとう困りだした。この顔が見たかったのだ。
「沙耶のバッグと引き換えにそれを渡して」
「嫌だ~」
弥生がバッグを持って、私の大事なワインボトルを取り上げようとしたから、取られまいとワインボトルを振り上げると、その手をがしっと掴んで、唇をふさがれた。
「!!」
公衆の面前でなんていうことをするのだろう。いくら酔っ払いでも頭はっきりとしている。それがあの時と違うところなんだけど、もがいても、もがいても、社長は私を離してくれず、それよりかさらに引き寄せて強く抱きしめた。
そんなシチュエーションに私の足は、過去にもあったようにぴょんと跳ねた。
「帰るぞ」
「……」
アルコールだけじゃなく、社長のキスに酔いしれる。まったくこれ以上私を酔わせてどうするつもり? まったくキスの一つや二つなんでもないはずなのに、体中の血が騒いでサンバでも踊りだしそう。
弥生やマコが見ている前で本当に恥ずかしいけど、ドラマのようでなんだか嬉しい。まったくやってくれるじゃない。
車に載せられるとき私は、二人に足が跳ねたことをジェスチャーで伝える。足をぴょんぴょん跳ねて教えた。
二人は分かった、分かったと追っ払うようにしっしと手を振る。
弥生とマコに、誘拐犯に無理やり連れ去られるような感じで車に載せられ、ドアを閉められる。女の友情は本当に薄情。
「薄情者! 裏切者!」
「沙耶、やめなさい」
「べ~」
「迷惑をかけてしまってすみませんでした」
「いいえ~ とんでもないですぅ」
社長が謝るなんて、そんな低姿勢なことも言えたんだ。二人は同時に返事をするし、シートベルトに固定された私は、二人を睨むことしか出来ない。
「ほれバッグ」
社長には猫なで声で返事をしていたのに、私の扱いが雑すぎ。窓から渡されたバッグを抱えると、二人は満面の笑みで私を見送った。
とっさに外人の真似をしてみたけど、笑わない。
「何がしゃちょうさんだ。帰るぞ」
「いや~」
私は女子会を楽しんでいるんだし、仕事じゃないのに偉そうに指示しないでよ。今まで出来なかった女子の時間を取り返している最中に、雰囲気を壊すなんて許せない。
「ちょっと沙耶」
「何よ」
「帰ったほうがいいと思うけどなぁ」
社長を前にして弥生は人が変わったように言う。女の友情なんてやっぱり薄情なのか。
「沙耶、どうぞお帰り下さい」
「マコの裏切者」
絶対に素直に言うことなんか聞かないと、席を立ちあがるとふらふらと視界が揺れた。
そのまま立っていることが出来ずに、腰が抜けたようにすとんと椅子に座る。
「ワインは悪酔いするんだってば」
弥生は慌てたように言った。
「それ以上飲んだら後が大変だぞ」
過去のことがあるからか心配はしてくれる。
「いいんです、私はこれからこの女子達とナンパをしに行く予定なんです。ナンパした男に介抱してもらうからいいんです」
「行きませんよ」
「マコ! なんですって!?」
確かにナンパなんかしないけど、合わせることもしないでしらっと裏切りやがった。
「沙耶はもらってく。あなたたちも帰りなさい」
「は~い」
は~い? 頭のてっぺんから声出しちゃって、なにがは~いよ。
「帰るぞ」
「嫌だってば!」
といっても、千鳥足になっている私には、抵抗する力もない。羽交い絞めみたいにして椅子から降ろされると、そのままずるずると店を引きずられるようにして出された。
「帰らない!」
「帰るんだ」
「べー」
この際だから大騒ぎをしてやる。
「沙耶、ワインボトルを離して。さ、ほれ、渡しなさい」
心配して出てきてくれたマコと弥生。
「いや~」
「沙耶、離しなさい。割れたらケガをしてしまうから」
「べ~、べ~、べ~だ」
今度は優しさ作戦にでたのね。その手にはのりません。
「沙耶……」
ふふふ、とうとう困りだした。この顔が見たかったのだ。
「沙耶のバッグと引き換えにそれを渡して」
「嫌だ~」
弥生がバッグを持って、私の大事なワインボトルを取り上げようとしたから、取られまいとワインボトルを振り上げると、その手をがしっと掴んで、唇をふさがれた。
「!!」
公衆の面前でなんていうことをするのだろう。いくら酔っ払いでも頭はっきりとしている。それがあの時と違うところなんだけど、もがいても、もがいても、社長は私を離してくれず、それよりかさらに引き寄せて強く抱きしめた。
そんなシチュエーションに私の足は、過去にもあったようにぴょんと跳ねた。
「帰るぞ」
「……」
アルコールだけじゃなく、社長のキスに酔いしれる。まったくこれ以上私を酔わせてどうするつもり? まったくキスの一つや二つなんでもないはずなのに、体中の血が騒いでサンバでも踊りだしそう。
弥生やマコが見ている前で本当に恥ずかしいけど、ドラマのようでなんだか嬉しい。まったくやってくれるじゃない。
車に載せられるとき私は、二人に足が跳ねたことをジェスチャーで伝える。足をぴょんぴょん跳ねて教えた。
二人は分かった、分かったと追っ払うようにしっしと手を振る。
弥生とマコに、誘拐犯に無理やり連れ去られるような感じで車に載せられ、ドアを閉められる。女の友情は本当に薄情。
「薄情者! 裏切者!」
「沙耶、やめなさい」
「べ~」
「迷惑をかけてしまってすみませんでした」
「いいえ~ とんでもないですぅ」
社長が謝るなんて、そんな低姿勢なことも言えたんだ。二人は同時に返事をするし、シートベルトに固定された私は、二人を睨むことしか出来ない。
「ほれバッグ」
社長には猫なで声で返事をしていたのに、私の扱いが雑すぎ。窓から渡されたバッグを抱えると、二人は満面の笑みで私を見送った。