5時からヒロイン
何年ぶりの心地よい朝の目覚め。
「沙耶」
人肌の感触がなくて眠い目を開けられずに、手探りで彼女を探す。
「沙耶?」
隣には愛する女が眠っている。
はずだった。
「ん?」
ベッドは確かに広くて大きいが、ここまでなんの感触がないのはおかしい。
人気のなさに飛び起きると、沙耶の姿がなかった。
「沙耶~」
もしかしたら起きてリビングにいるのかもしれないと、名前を呼んでみるが返事もない。
彼女を探しに行こうとベッドから降りると、熱い情事の跡は俺のタキシードだけで、彼女の服は何もなかった。
「嘘だろ」
リビング、トイレ、バスルームと探し回り玄関に行くと、あのパンプスはなかった。
「帰った……?」
そうだよな。今日も仕事で、着替えもしないで出勤は出来ないよな。
彼女のことだから、俺を起こさないように気を使って、そっと帰ったのだろう。
「可哀そうなことをしてしまったな」
朝は送ろうと思っていたし、少し遅刻しても構わないと言おうとしていたが、彼女は思った以上に秘書だったようだ。
鼻歌が出るほど気分が良くて、いつもより丁寧にコーヒーを入れて、ニュースを見ながらメールをチェックする。
どんな顔をして会えばいいだろう。
いい年した男が、朝からドキドキしているなんて、気持ちが悪い。
「行くか」
週末に近くなると身体も重くなるが、非常に軽やかだ。
出勤しても落ち着かず、ウロウロとするばかり。
「もうすぐ来るな」
彼女が来る時間は、いつも待ち遠しかった。
ノックの音がすると顔を無表情にして、視線を合わせないようにするのが癖になっていた。
にやけてしまう顔と見つめてしまう視線を、どうにかしなくてはと考えた、苦肉の策だった。
「いきなりやっちまったからな……」
いい大人であっても、付き合う手順というものがある。
俺はそのすべてすっ飛ばして抱いてしまった。
秘書として彼女には本当に支えてもらっていて、感謝しきれないが、満足な礼も言えずにいた。
彼女にはやってやりたいことが山ほどある。それがこれから実現できると思うと、胸が踊る。
「そろそろ来るな」
彼女があのドアをノックする時間になった。
そそくさとデスクに戻って、パソコンを立ち上げる。
我ながらセコイ。
まず、最初にかける言葉はどうしようか、どんな態度を取ったらいいか。
朝に彼女の姿がなかったばかりに、少し予定が狂う。
仕事は予定通りルーティンを組んで、効率よく処理していく俺も、こういうことは器用にはできない。
待ちに待ったドアをノックする音。
彼女が来たら平常心でいられるだろうか。
「はい」
「おはようございます。遅くなりました。新聞と、昨日の業務報告書でございます」
「ん」
入ってきた姿にまず驚き、自分の接し方にも驚いた。
意図してやろうとしたわけじゃないが、習慣とは恐ろしいもので、いつもと変わらない態度で接してしまった。
違う、もっと、こうなんていうか。
抱きしめるとか、朝いなくてびっくりしただとか、ちゃんと帰れたのか心配だったとか、ありふれたことを言えばいいだけなのに、口からはなんの言葉も出ず、
「今日もおいしい」
いつものように出されたコーヒーの味の感想を言った。
ばかやろう。
言え、言うんだ。
朝はいなくて寂しかったと。
「本日の予定でございます」
「ん」
予定を読み上げる口元見てしまう。
昨日、あの唇にキスをした。
あの口から漏れた吐息。
いつものようにぴしっと決めたスーツの下は、艶めかしい身体が隠れている。
それに、その髪。
なんで今日に限って下ろしてくるんだ?
感じるたびに乱れた髪を思い出す。
思春期の男のように、頭の中はそのことで一杯になってしまった。
「沙耶」
人肌の感触がなくて眠い目を開けられずに、手探りで彼女を探す。
「沙耶?」
隣には愛する女が眠っている。
はずだった。
「ん?」
ベッドは確かに広くて大きいが、ここまでなんの感触がないのはおかしい。
人気のなさに飛び起きると、沙耶の姿がなかった。
「沙耶~」
もしかしたら起きてリビングにいるのかもしれないと、名前を呼んでみるが返事もない。
彼女を探しに行こうとベッドから降りると、熱い情事の跡は俺のタキシードだけで、彼女の服は何もなかった。
「嘘だろ」
リビング、トイレ、バスルームと探し回り玄関に行くと、あのパンプスはなかった。
「帰った……?」
そうだよな。今日も仕事で、着替えもしないで出勤は出来ないよな。
彼女のことだから、俺を起こさないように気を使って、そっと帰ったのだろう。
「可哀そうなことをしてしまったな」
朝は送ろうと思っていたし、少し遅刻しても構わないと言おうとしていたが、彼女は思った以上に秘書だったようだ。
鼻歌が出るほど気分が良くて、いつもより丁寧にコーヒーを入れて、ニュースを見ながらメールをチェックする。
どんな顔をして会えばいいだろう。
いい年した男が、朝からドキドキしているなんて、気持ちが悪い。
「行くか」
週末に近くなると身体も重くなるが、非常に軽やかだ。
出勤しても落ち着かず、ウロウロとするばかり。
「もうすぐ来るな」
彼女が来る時間は、いつも待ち遠しかった。
ノックの音がすると顔を無表情にして、視線を合わせないようにするのが癖になっていた。
にやけてしまう顔と見つめてしまう視線を、どうにかしなくてはと考えた、苦肉の策だった。
「いきなりやっちまったからな……」
いい大人であっても、付き合う手順というものがある。
俺はそのすべてすっ飛ばして抱いてしまった。
秘書として彼女には本当に支えてもらっていて、感謝しきれないが、満足な礼も言えずにいた。
彼女にはやってやりたいことが山ほどある。それがこれから実現できると思うと、胸が踊る。
「そろそろ来るな」
彼女があのドアをノックする時間になった。
そそくさとデスクに戻って、パソコンを立ち上げる。
我ながらセコイ。
まず、最初にかける言葉はどうしようか、どんな態度を取ったらいいか。
朝に彼女の姿がなかったばかりに、少し予定が狂う。
仕事は予定通りルーティンを組んで、効率よく処理していく俺も、こういうことは器用にはできない。
待ちに待ったドアをノックする音。
彼女が来たら平常心でいられるだろうか。
「はい」
「おはようございます。遅くなりました。新聞と、昨日の業務報告書でございます」
「ん」
入ってきた姿にまず驚き、自分の接し方にも驚いた。
意図してやろうとしたわけじゃないが、習慣とは恐ろしいもので、いつもと変わらない態度で接してしまった。
違う、もっと、こうなんていうか。
抱きしめるとか、朝いなくてびっくりしただとか、ちゃんと帰れたのか心配だったとか、ありふれたことを言えばいいだけなのに、口からはなんの言葉も出ず、
「今日もおいしい」
いつものように出されたコーヒーの味の感想を言った。
ばかやろう。
言え、言うんだ。
朝はいなくて寂しかったと。
「本日の予定でございます」
「ん」
予定を読み上げる口元見てしまう。
昨日、あの唇にキスをした。
あの口から漏れた吐息。
いつものようにぴしっと決めたスーツの下は、艶めかしい身体が隠れている。
それに、その髪。
なんで今日に限って下ろしてくるんだ?
感じるたびに乱れた髪を思い出す。
思春期の男のように、頭の中はそのことで一杯になってしまった。