5時からヒロイン
「失礼します」
彼女が用意した赤いネクタイに替えるため、付けていたネクタイを取って、ネクタイを締めやすいように少しかがむ。
俺はこれが大好きだ。
ネクタイなんか自分で結べるに決まってるが、結んでもらうのが異常に好きだ。
だが、会食やパーティーの度にこうしていたら、やばいやつだと思われてしまう。
だから極力自分で支度をし、彼女が忘れかけているころ、また結んでもらうという、姑息な手段を取っている。
少しかがんだだけで、彼女の顔が間近になる。
腰に腕を回して引き寄せ、押し倒したい欲求を、死ぬほど我慢する。
綺麗な顔を見つめ、あの夜を思い出す。
ちらちらと視線があって、そのたびに恥ずかしそうにする彼女が可愛い。
しかし、近くで見れば見るほど、顔色が悪い。
「顔色が悪い」
「体調は悪くございません。ご心配いただき恐縮です」
社長の俺に体調の心配をされ、本当のことを言うはずがない。
だけど、何処をみても顔色の悪さが目立ち、観察するようにじっと見てしまった。
料亭につくと、真っ先に女将に料理の注文をする。
「水越くんには、野菜中心の料理にしていただけませんか?」
「どこか体調でもお悪いのですか?」
「少し顔色が悪いようなんです」
「畏まりました」
食欲まで落ちていたら、本当に大事なことになる。
その前にあの夜のことを告白して、俺のマンションに連れてくればいい。
このあとも、銀座のギャラリーに行かなくちゃならないし、動いてばかりで疲れるだろう。
和やかに会食も終わり、銀座へ向かう。
彼女が用意していた手土産はセンスが良くて、評判も良く、どこへ持って行っても恥ずかしくない。
やっと帰社すると、座る間もなく彼女はコーヒーを淹れてくれた。
その優しさに涙が出そうだ。
「コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう」
「……社長」
「どうした?」
「あの……昼食のご配慮、ありがとうございました。お礼が遅くなりまして」
礼なんか言うな。
食べてくれればそれでいい。
「……身体を労わりなさい」
「はい」
ばかやろー。
なぜ気取ってしまうんだ。
好きな女の前で男は、恰好をつけたい生き物だが、こんな時はそんな小さいプライドなんか捨ててしまえと思う。
なのに、なぜ出来ないんだ五代真弥。
身についてしまった社長と社員の距離を、急には変えられない自分が嫌だ。
彼女が用意した赤いネクタイに替えるため、付けていたネクタイを取って、ネクタイを締めやすいように少しかがむ。
俺はこれが大好きだ。
ネクタイなんか自分で結べるに決まってるが、結んでもらうのが異常に好きだ。
だが、会食やパーティーの度にこうしていたら、やばいやつだと思われてしまう。
だから極力自分で支度をし、彼女が忘れかけているころ、また結んでもらうという、姑息な手段を取っている。
少しかがんだだけで、彼女の顔が間近になる。
腰に腕を回して引き寄せ、押し倒したい欲求を、死ぬほど我慢する。
綺麗な顔を見つめ、あの夜を思い出す。
ちらちらと視線があって、そのたびに恥ずかしそうにする彼女が可愛い。
しかし、近くで見れば見るほど、顔色が悪い。
「顔色が悪い」
「体調は悪くございません。ご心配いただき恐縮です」
社長の俺に体調の心配をされ、本当のことを言うはずがない。
だけど、何処をみても顔色の悪さが目立ち、観察するようにじっと見てしまった。
料亭につくと、真っ先に女将に料理の注文をする。
「水越くんには、野菜中心の料理にしていただけませんか?」
「どこか体調でもお悪いのですか?」
「少し顔色が悪いようなんです」
「畏まりました」
食欲まで落ちていたら、本当に大事なことになる。
その前にあの夜のことを告白して、俺のマンションに連れてくればいい。
このあとも、銀座のギャラリーに行かなくちゃならないし、動いてばかりで疲れるだろう。
和やかに会食も終わり、銀座へ向かう。
彼女が用意していた手土産はセンスが良くて、評判も良く、どこへ持って行っても恥ずかしくない。
やっと帰社すると、座る間もなく彼女はコーヒーを淹れてくれた。
その優しさに涙が出そうだ。
「コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう」
「……社長」
「どうした?」
「あの……昼食のご配慮、ありがとうございました。お礼が遅くなりまして」
礼なんか言うな。
食べてくれればそれでいい。
「……身体を労わりなさい」
「はい」
ばかやろー。
なぜ気取ってしまうんだ。
好きな女の前で男は、恰好をつけたい生き物だが、こんな時はそんな小さいプライドなんか捨ててしまえと思う。
なのに、なぜ出来ないんだ五代真弥。
身についてしまった社長と社員の距離を、急には変えられない自分が嫌だ。