5時からヒロイン
こんな状態になってしまい、我慢も限界だったのだろうと推測できる。
あの夜のことを聞いてきたのだが、記憶にないとはおもわず、まさに青天の霹靂だった。

「———もしかして、覚えてないのか……? 俺が君に言ったこともか?」
「言った……? 何を……?」
「ホント……か……?」

しばらく様子を見てからと思っていたが、こんなことなら早く聞いて入れば良かった。だけど、後の祭りだ。
すべてを知る権利が彼女にはあるが、あの時のことを思い出すと、胸にとどめて置いたほうがいいだろうと思うところもある。
すべてを話すことが良いことじゃなく、知らないほうが良いこともあるのだ。
俺はかいつまんで教えることにした。
話を進めていくと、だんだん思い出してきたようで、恥ずかしさに顔を隠し始めた。
本当のことを言わなくて良かった。
ところどころ端折って話しただけでも、この恥ずかしがりよう。
本当のことを言ってしまったら、気絶してしまうかもしれない。
そして一つ彼女に謝らなけれないけないことがある。

「様子を見計らって言おうとしていたんだが、こんなことになるまで放っておいてしまって、悪かった」

今思い出してもおかしくて笑ってしまいそうになるが、彼女を傷つけてしまうから、ぐっと我慢する。
言いたいことを言わせて、すっきりさせてやったほうがいいだろう。
彼女のサンドバッグになろうと、構えていたが、可愛い彼女の攻撃は、やっぱり可愛いままだった。

「許しません」

と言って膨れる顔がとても可愛い。
俺も変な男のプライドは捨て、素直になる。

「辛い思いをさせてしまって悪かった。……俺は、ずっと沙耶を愛していた」

これが本心だった。
簡単そうで簡単に言えなかった言葉で、この一言はとても重い。
沙耶が幸せそうな顔を見せてくれた。俺が見たかった顔は、こういう幸せな顔だったのに、ずっと辛い顔をさせてしまっていた。
俺はたまらずキスをする。
こんなに幸せだと、感じるキスは初めてだ。

「痛かっただろう。こんなことになってしまって、胸が痛むよ」
「社長のせいですから」
「その通りだ。早く元気になって、好きなだけ俺を責めろ」

元気になってくれればそれでいい。
愛おしくて、大切な彼女をこれからも守っていく。それが俺の使命だ。



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