5時からヒロイン
長い長い入院生活も終わりを迎える。
やっと退院する沙耶に、何をしてあげようかと、いろいろ考えていた。
今日は外せない予定もあったが、先方に変更を頼み込んで、この日の予定はすべてキャンセルをした。
俺がすべてやってしまうと、部長の見せ場を奪ってしまうのは可哀そうだと、部長思いの俺は、スケジュールの変更を部長に指示した。

「私ですか?」
「ほかに誰がやるんです?」
「ええ、そうですね」

いつも以上に汗をかいて、汗を拭くハンカチは、びっしょりだ。
この仕事を、俺の可愛い彼女は一人でやっていたんだぞ。部長という役職についているんだから、沙耶よりも完璧に組みなおすことができるだろう。
期待して待っていよう。

「く、く、く……おもしろい」

見舞いに行くたびに、部長が心配で連絡をしている沙耶。

「役職に見合った給料を出しているんだから、やってくれよな部長」

飴と鞭を使い分ける俺は、やっぱりいい上司だ。
朝に休みの連絡を入れ、病院に直行する。
休みの連絡を入れた時の、部長のほっとしたような声。俺は聞き逃さなかった。

「今度は鞭を与えてやる番だな」

退院の手続きを済ませ、病室に着くと、沙耶は退院の準備をして待っていた。

「部長に優しくしてくれましたか?」

これだ。
俺よりも部長を優先するなんて、まったくもって許せない。
報復は必ず実行するから、待ってろよ部長。

「もちろんだ。部長を始め、秘書課でバックアップしれくれていて、助かったよ」
「安心しました」

ふん。
せっかくの晴れの日だ、気分を切れ替えて、初めて手を繋いで堂々と外に出ると、見慣れているはずの病院の庭が、とても美しく目に映った。
赤く色づき始める木と、まだ緑の葉を残している木とまじりあって、そのコントラストに目を奪われる。
なんてロマンチストな俺。

「ちょっと買い物をしたいんだけど、少し歩いても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」

入院したついでに、捻挫した足も治療を受けていた沙耶は、完全ではないが、回復をしていた。
退院したら自宅には帰さず、俺の自宅に連れて帰ろうと決めていた。
それには女性が必要な物を、買いに行かなければならない。
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