5時からヒロイン
「お腹が空いた」
「お菓子が食べたい」
「何時に帰ってくるのか」
男の仕事を考えない女の、久し振りの要求。
いやというほど体験してきて、懲りていたはずなのに、沙耶からの要求は歓迎するものだ。
「しょうがないやつだな」
なんていいながら、帰りはスーパーに寄って、喜びそうな物を買って帰ろうとほくそ笑む。
親父から代替わりして社長になったが、ただがむしゃらに仕事をしてきた。
業績は社長にかかっている。
社員を路頭に迷わすわけにはいかない。
大企業と言われるファイブスター製薬だが、何がきっかけで会社が傾くか分からない時代だ。
少なくとも、親父が社長だったときより、業績はあがっている。
息つく暇もなく働いてきたから、ここらで自分のことを優先しても罰は当たらないだろう。
「帰るか」
定時に仕事を終え、社長室を出る爽快感。
仕事中心の毎日に別れを告げる。
沙耶と一緒の時間を作ることが先決で、仕事は二の次。社長の俺がこんなことを言うべきじゃないが、少し個人の時間が欲しい。
プライベートが充実してくれば、仕事にもいい影響を与えるのは目に見えている。
「俺も甘いな」
本当はいけないのに、食べたいと言っていたお菓子まで買い込む始末。
喜ぶ顔が見たいだけなのだが、これはダメなことだ。
エントランスでルームナンバーを押し、沙耶が応答する。
玄関前でもインターフォンを鳴らして、沙耶が出迎える。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「お疲れさまでした」
素顔のまま俺に飛びつく沙耶に、お帰りのキスを受ける。
それだけじゃ物足りなくて、俺は沙耶を抱き上げ、リビングへ。
離せないキスが深くなるにつれ、沙耶を欲しくなる。
ぐぅ~。
「あ……」
「ぷっ……」
いいタイミングで腹が鳴ってくれた。このままいっていたら、押し倒してしまうところだった。
病人を抱くなんて、ただのけだものだからな。
「すぐに作るよ」
「すみません」
急いで夕食の支度を始めると、ゴミ箱に沙耶が食べたナッツとドライフルーツの袋が捨ててあった。
「あいつ全部食べたな。沙耶!」
「は~い」
返事だけはいい沙耶が、飛んでくる。
「全部食べたな」
「知りません」
ゴミ箱を見せて追及すると、すっとぼけた。
「じゃあ、沙耶以外に誰が食べるんだよ」
「聞いて下さい。私がソファで寛いでいたら、人の気配がしたんです」
「人?」
「はい」
「……ほう……それで?」
言い訳を聞いてやろうじゃないか。
「カサカサ……ごそごそと音がして」
「ふんふん……それで?」
「〇×△*$?って、何か分からない言葉が聞こえて」
「……」
「この家、私だけじゃなく妖精や座敷童が住みついているんですよ。だから会社も揺るがず安泰なんです。良かったですね、社長」
悪ぶれることもなく、にっこり笑う。
「……すぐに作るからテレビでも観てなさい」
「は~い」
俺は、素晴らしい想像力の持ち主を彼女にしたようだ。
おかしくて笑いが止まらない。
言い訳を考えさせるのが可哀そうだから、買い置きはしばらく止めようと決めた夜だったが、連日のようにお菓子が食べたいとラインを送ってくる彼女に、折れたのは言うまでもない。
「お菓子が食べたい」
「何時に帰ってくるのか」
男の仕事を考えない女の、久し振りの要求。
いやというほど体験してきて、懲りていたはずなのに、沙耶からの要求は歓迎するものだ。
「しょうがないやつだな」
なんていいながら、帰りはスーパーに寄って、喜びそうな物を買って帰ろうとほくそ笑む。
親父から代替わりして社長になったが、ただがむしゃらに仕事をしてきた。
業績は社長にかかっている。
社員を路頭に迷わすわけにはいかない。
大企業と言われるファイブスター製薬だが、何がきっかけで会社が傾くか分からない時代だ。
少なくとも、親父が社長だったときより、業績はあがっている。
息つく暇もなく働いてきたから、ここらで自分のことを優先しても罰は当たらないだろう。
「帰るか」
定時に仕事を終え、社長室を出る爽快感。
仕事中心の毎日に別れを告げる。
沙耶と一緒の時間を作ることが先決で、仕事は二の次。社長の俺がこんなことを言うべきじゃないが、少し個人の時間が欲しい。
プライベートが充実してくれば、仕事にもいい影響を与えるのは目に見えている。
「俺も甘いな」
本当はいけないのに、食べたいと言っていたお菓子まで買い込む始末。
喜ぶ顔が見たいだけなのだが、これはダメなことだ。
エントランスでルームナンバーを押し、沙耶が応答する。
玄関前でもインターフォンを鳴らして、沙耶が出迎える。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「お疲れさまでした」
素顔のまま俺に飛びつく沙耶に、お帰りのキスを受ける。
それだけじゃ物足りなくて、俺は沙耶を抱き上げ、リビングへ。
離せないキスが深くなるにつれ、沙耶を欲しくなる。
ぐぅ~。
「あ……」
「ぷっ……」
いいタイミングで腹が鳴ってくれた。このままいっていたら、押し倒してしまうところだった。
病人を抱くなんて、ただのけだものだからな。
「すぐに作るよ」
「すみません」
急いで夕食の支度を始めると、ゴミ箱に沙耶が食べたナッツとドライフルーツの袋が捨ててあった。
「あいつ全部食べたな。沙耶!」
「は~い」
返事だけはいい沙耶が、飛んでくる。
「全部食べたな」
「知りません」
ゴミ箱を見せて追及すると、すっとぼけた。
「じゃあ、沙耶以外に誰が食べるんだよ」
「聞いて下さい。私がソファで寛いでいたら、人の気配がしたんです」
「人?」
「はい」
「……ほう……それで?」
言い訳を聞いてやろうじゃないか。
「カサカサ……ごそごそと音がして」
「ふんふん……それで?」
「〇×△*$?って、何か分からない言葉が聞こえて」
「……」
「この家、私だけじゃなく妖精や座敷童が住みついているんですよ。だから会社も揺るがず安泰なんです。良かったですね、社長」
悪ぶれることもなく、にっこり笑う。
「……すぐに作るからテレビでも観てなさい」
「は~い」
俺は、素晴らしい想像力の持ち主を彼女にしたようだ。
おかしくて笑いが止まらない。
言い訳を考えさせるのが可哀そうだから、買い置きはしばらく止めようと決めた夜だったが、連日のようにお菓子が食べたいとラインを送ってくる彼女に、折れたのは言うまでもない。