5時からヒロイン
親父と母親にせっつかれて、渋々修二に連絡をする。

『アニキ? 久し振りじゃん』
「大人しくしてるんだろうな」
『聞いてくるってことは、耳に入ってないってことだろ? ということは、大人しくしてるってことだよ』

相変わらず口が達者だ。

「見合いをしろ」
『どこの子? 可愛い? 年下? やるやる見合いやる』

どうしようもないバカだ。
てっきり断るかと思ったら乗り気で女のことを聞いてきた。

『嘘だよ。俺は親の言いなりにはならない。自分の人生は自分のものだからな。アニキはずっと親のいう通りに生きてるけどさ、それでいいのかよ』
「……嫌だと断っておく」
『よろしく』

修二のいう通り、俺はずっと親のいう通りに生きてきたような気がするが、選択はいつだって自分で決めてきたつもりだ。

「と、思ってたけど、それも親が操ってたのかもしれないな。だとしたらうまいこと育てたよな」

心のどこかで修二が羨ましかった。
好きで長男に生れたわけじゃない。
あいつのように自由に選択できる人生だったら、どんなにいいかと。

「ま、社長になってなかったら沙耶に会えなかったから、いいけどな」

今まで修二が付き合ってきた女を見てきて、沙耶は修二の好みの女だと、すぐにわかった。だから絶対に合わせたくない。
自信がないとかそんなんじゃなく、沙耶を品定めするような目つきで見られるのが、許せないだけだ。
沙耶だってあいつには惹かれない。そこだけは分かる。
修二の存在自体も知られたくないと、思ってしまうのはアニキ失格だろうか。
だけど、センチメンタルな気分に浸っていられたのは、この時までだった。

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