5時からヒロイン
「首を洗って待ってろよ」

車を目的地まで走らせ、店の前に着く。

「ここだな」

プライベート用のスマホは出ないだろうから、社用のスマホに再度電話をかける。

「出なかったら、ほんとうにお仕置きだぞ」

イライラしながらコールしていたが、沙耶は本当に出ない。
合コンが盛り上がりを見せているのだろう。
こうなったら、見っともなくてもいい、俺の女を連れ戻さなければならない。
店のドアを開けると、ひと際賑わっているテーブルがあった。
てっきり合コンをしていると思っていたが、女子会だったようだ。

「楽しんでやがる」

沙耶は相当飲んでいるようで、一番楽しそうだ。

「しょうがねえ奴だな……ちょっと」

店員を呼んで、沙耶のテーブルの会計を済ませる。
金額はどうってことはないが、レシートの長さといったらない。

「どんだけ食うんだよ」

沙耶のいるほうを見ると、なんとボトルを振り上げているではないか。

「おいおいおいおい」

酔っている状態でそんなものを振り上げたら、ケガをするだろうが。
慌てて沙耶のいるテーブルに駆け寄って、振り上げた手を掴んだ。

「もう! 誰よ!!」
「俺だ」

沙耶のびっくりした顔ったらない。
だが、酔っていることに変わりはなく、顔は酔っ払いそのものだった。

「帰るぞ」
「いや~」

いやだと?
これは手こずるぞ。
友人たちは俺が現れたことによって、お開きにしようと沙耶をなだめすかせるが、どんなことを言っても店を出る気がないようだ。

「これから男をナンパしに行くんですから」

何を言い出すかと思えばナンパだと? 
嘘まで言い出した沙耶を、俺は腕ずくでかっさらうことに決めた。
紳士らしく抱き上げたかったが、狭い店内で暴れでもしたら大事になってしまう。
友人の力を借りて店の外まで連れ出すと、騒ぎ出した。

「帰らない!!」
「帰るんだ」
「べ~、べ~、べ~だ」
「沙耶……」

こんな風に俺を困らす女なんだと思ったら、ものすごく愛おしくなった。
どんな女でも、ここまで自分をさらけ出すことはないだろうが、沙耶はどんなときも素直に表現をするんだと、違う一面が見られて嬉しい。
しかし、暴れるのはよくない。
持ったままのワインボトルを奪い取ろうとしたとき、取られまいと手を振り上げた。
俺はとっさに振り上げた手を掴んで、沙耶の唇を奪うようにして、キスをした。
口封じ作戦だ。
我ながらキザなことをすると思いながら、キスを堪能する。
この作戦が功を奏し、沙耶はおとなしくなった。
暴れる前に車に乗せ、シートベルトでシートに固定したが、友人に牙を向く始末。
友人たちの助けもあって、扱いが少々雑だったが少しおとなしくなって、なんとか帰路につくことが出来た。
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