5時からヒロイン
家に着いたら、着いたで、沙耶はもっと手に負えなくなっていた。
「大虎だな」
「虎って何よ! 私はかわいい子猫ちゃんよ、ねえ、たま子」
「……」
俺が何か言ったら、火に油を注ぐ状態だった。
玄関の飾りの招き猫に話しかけ、抱いている。
酔いを覚ますのが先決で、水を飲ませ、落ち着かせるが、一度火が付いた沙耶をおとなしくさせるのは困難だった。
よほど胸にたまっていたらしく、思いの丈をぶちまける。
「ちょっと! お花畑種子は何歳なのよ!!」
やっぱり原因はそれか。
早めに説明をしておけばよかったと、この時ほど後悔したことはない。
「花畑薫子さんだ」
「はっ! 種子でも薫子でもなんでもいいわ、 何歳なの!」
「23歳だ」
「エロじじいじゃない!」
「じじいとは酷いな」
「そんな若い歳の女を召し抱えるとは。どうせ私は30のになるおばさんよ。ずっと彼氏がいなくて枯れかけていた女よ。第一ね、日本の男は若い女が好きなのよ。自分のたるみを棚に上げて、ぴちぴちした女ばっかり嫁にもらっちゃってさ。それで言い訳が、子孫を残すことがDNAとして組み込まれているんだとか屁理屈こねちゃって、ろくなもんじゃないのよ」
「……」
「私だってね、若い男が好きよ。今時の若い子は、酸いも甘いも知り尽くしてリードしてくれる熟女が好きだっていうじゃない。秘書課だって女ばっかりで、それだって社長の趣味が反映されてるんでしょ? 平野紫輝君みたいな後輩が入ってくれば、あっというまに彼は私の虜になるはずなのに、まったく入社してくる気配がないし。社長が裏で手を回して阻止してるに違いないの」
「平野紫輝?」
「知らないの? 王様と王子様よ」
「……アイドルか……」
「それに、今市君にだってなってくれないじゃない!」
どんどん話はへんてこな方向にいく。
前に酔っぱらったときは、可愛さ満点の酔い方だったが、今はどうだ?やさぐれた上にやっぱりとんちんかんなことを言って、訳が分からない。
言いたいことを言わせてすっきりさせてやろうと思っていたが、沙耶の口から出たのは、別れの言葉だった。
軽いめまいを起こしたのは嘘じゃない。
晴天の霹靂とはこういう時に使うのか。
俺は初めて感じる心臓の痛みに、胸を抑えてしまった。
大丈夫だ、沙耶は酒が入って正しい判断が出来ないだけだから、落ち着けば大丈夫。
「酔いを覚ましてから、もう一度話そう? な? こっちにおいで」
一瞬、俺の差し出した手を取ろうとしたが、思いとどまった沙耶は、さらに興奮してうっぷんを晴らしまくる。
その興奮したのが良くなかったようで、突然の吐き気が襲ってトイレに籠った。
心配でドアを叩いても開けてくれず、仕方なくリビングで待つ。
「それもそうか、吐いてるところなんか見せたくないよな」
心配でウロウロとしていると、やっとトイレのドアが開いて、げっそりした沙耶をソファに寝かせた。
「沙耶、水」
「……はい」
水を飲みながら俺を恨めしそうに見る。
ここまで悩ませてごめん。
「もう……許さないんだから……」
ぼそりと言って、眠ってしまった。
「ごめんな……」
眠ってしまった沙耶に、毛布と枕を置いて、一息つく。
「平野紫輝……だったか?」
俺の全く知らない世界。
沙耶に馬鹿にされるのも癪だから、調べてみる。
スマホで検索すると、すぐにその男は出てきた。
「こいつか……俺の方がいい男じゃねえか。まだまだ子供だ」
永遠に検索画面に出てくるアイドルを、見ている俺はなんなんだ。
「しかしキラッキラだな」
俺に足りないのはこのキラキラ感と、認めたくないが若さだな。
財力、地位、男らしさ、男気、信頼感などなにも負けてない。
そいつのグループも出てきて、5人組だと知る。
「やばい……みんな同じ顔に見える」
パーティーの招待客の顔と名前を覚えるのはあっという間だが、アイドル軍団の顔は全く覚えられない。
みんな同じ髪型、顔かたちに見えて区別がつけられない。まるでおそ松くん兄弟みたいだ。
「やばい、おそ松くんを想像する時点で、すでにやばい」
そういえば、女のグループもいくつかあったよな。
それもついでに検索してみる。
「やばい、やばい。分身の術じゃないかと思うほど、みんな同じに見える」
友達100人出来るかなじゃないが、どんだけアイドルはいるんだ?
団大競技じゃあるまいし、こんな大人数で踊って唄うところは、特技として履歴書に書いたっていい。
キラキラした若さ。それだけは勝てない。
「若いっていいな」
落ち込むくらいなら、調べなきゃよかった。
沙耶との年齢差を、少しだけ気にしている俺は、がっくりしてしまった。
「大虎だな」
「虎って何よ! 私はかわいい子猫ちゃんよ、ねえ、たま子」
「……」
俺が何か言ったら、火に油を注ぐ状態だった。
玄関の飾りの招き猫に話しかけ、抱いている。
酔いを覚ますのが先決で、水を飲ませ、落ち着かせるが、一度火が付いた沙耶をおとなしくさせるのは困難だった。
よほど胸にたまっていたらしく、思いの丈をぶちまける。
「ちょっと! お花畑種子は何歳なのよ!!」
やっぱり原因はそれか。
早めに説明をしておけばよかったと、この時ほど後悔したことはない。
「花畑薫子さんだ」
「はっ! 種子でも薫子でもなんでもいいわ、 何歳なの!」
「23歳だ」
「エロじじいじゃない!」
「じじいとは酷いな」
「そんな若い歳の女を召し抱えるとは。どうせ私は30のになるおばさんよ。ずっと彼氏がいなくて枯れかけていた女よ。第一ね、日本の男は若い女が好きなのよ。自分のたるみを棚に上げて、ぴちぴちした女ばっかり嫁にもらっちゃってさ。それで言い訳が、子孫を残すことがDNAとして組み込まれているんだとか屁理屈こねちゃって、ろくなもんじゃないのよ」
「……」
「私だってね、若い男が好きよ。今時の若い子は、酸いも甘いも知り尽くしてリードしてくれる熟女が好きだっていうじゃない。秘書課だって女ばっかりで、それだって社長の趣味が反映されてるんでしょ? 平野紫輝君みたいな後輩が入ってくれば、あっというまに彼は私の虜になるはずなのに、まったく入社してくる気配がないし。社長が裏で手を回して阻止してるに違いないの」
「平野紫輝?」
「知らないの? 王様と王子様よ」
「……アイドルか……」
「それに、今市君にだってなってくれないじゃない!」
どんどん話はへんてこな方向にいく。
前に酔っぱらったときは、可愛さ満点の酔い方だったが、今はどうだ?やさぐれた上にやっぱりとんちんかんなことを言って、訳が分からない。
言いたいことを言わせてすっきりさせてやろうと思っていたが、沙耶の口から出たのは、別れの言葉だった。
軽いめまいを起こしたのは嘘じゃない。
晴天の霹靂とはこういう時に使うのか。
俺は初めて感じる心臓の痛みに、胸を抑えてしまった。
大丈夫だ、沙耶は酒が入って正しい判断が出来ないだけだから、落ち着けば大丈夫。
「酔いを覚ましてから、もう一度話そう? な? こっちにおいで」
一瞬、俺の差し出した手を取ろうとしたが、思いとどまった沙耶は、さらに興奮してうっぷんを晴らしまくる。
その興奮したのが良くなかったようで、突然の吐き気が襲ってトイレに籠った。
心配でドアを叩いても開けてくれず、仕方なくリビングで待つ。
「それもそうか、吐いてるところなんか見せたくないよな」
心配でウロウロとしていると、やっとトイレのドアが開いて、げっそりした沙耶をソファに寝かせた。
「沙耶、水」
「……はい」
水を飲みながら俺を恨めしそうに見る。
ここまで悩ませてごめん。
「もう……許さないんだから……」
ぼそりと言って、眠ってしまった。
「ごめんな……」
眠ってしまった沙耶に、毛布と枕を置いて、一息つく。
「平野紫輝……だったか?」
俺の全く知らない世界。
沙耶に馬鹿にされるのも癪だから、調べてみる。
スマホで検索すると、すぐにその男は出てきた。
「こいつか……俺の方がいい男じゃねえか。まだまだ子供だ」
永遠に検索画面に出てくるアイドルを、見ている俺はなんなんだ。
「しかしキラッキラだな」
俺に足りないのはこのキラキラ感と、認めたくないが若さだな。
財力、地位、男らしさ、男気、信頼感などなにも負けてない。
そいつのグループも出てきて、5人組だと知る。
「やばい……みんな同じ顔に見える」
パーティーの招待客の顔と名前を覚えるのはあっという間だが、アイドル軍団の顔は全く覚えられない。
みんな同じ髪型、顔かたちに見えて区別がつけられない。まるでおそ松くん兄弟みたいだ。
「やばい、おそ松くんを想像する時点で、すでにやばい」
そういえば、女のグループもいくつかあったよな。
それもついでに検索してみる。
「やばい、やばい。分身の術じゃないかと思うほど、みんな同じに見える」
友達100人出来るかなじゃないが、どんだけアイドルはいるんだ?
団大競技じゃあるまいし、こんな大人数で踊って唄うところは、特技として履歴書に書いたっていい。
キラキラした若さ。それだけは勝てない。
「若いっていいな」
落ち込むくらいなら、調べなきゃよかった。
沙耶との年齢差を、少しだけ気にしている俺は、がっくりしてしまった。