5時からヒロイン
7年分のキスをちょうだい
消えない胃の痛みを抱えながら仕事をしていた。
足の状態は驚くほどよくなって、スニーカーなら履けるくらいに腫れがひいていた。
週末をおとなしくしていたからなのか、それともまだ、若さが残っていたからなのか、自分の回復力に感謝だ。
私を惑わしてばかりの社長は、毎日送ってくれていた。秘書課に怪しまれてしまってないかと、冷や冷やしたが、今まで尽くしてきた実績が、怪しまれずに済んでいたようだ。
有休をとってもいいと言われたけど、怪我の為に大切な有休を使いたくなかったので、病院に再診に行った後で、申請しようと考えていた。
今日からいつものように、社長室前の秘書デスクで仕事をする。なんだか懐かしい感じがして、出勤してから掃除までしてしまった。
社長の仕事は終わらず、時計を見ると8時を過ぎていた。仕事がたまってしまった訳は、ずっと5時に会社を出て、私を送っていたからで、おまけに今日は外せない会食が入っていて、処理する仕事がたまっていた。
「帰りなさい」と言われたけど、帰れるはずもなく残業をしていた。
人間って楽する方に慣れるのは早くて、たったの数日間、定時で帰っていただけなのに、今日の残業が辛くてしょうがない。

「お腹が空いた」

デスクの引き出しを開けて、非常食と銘打ったお菓子箱を開ける。相変わらずのごちゃごちゃ状態だけど、つまみ食いばかりをして、お菓子が減っていた。

「あ~買い足しておくのを忘れちゃった」

キャラメルとグミが少しあるだけで、お腹の足しになるようなものはなかった。食堂に行けば、軽食が入った自動販売機があるが、社長が何も食べずに仕事をしているのに、私だけが食べるわけにいかない。

「痛い……お腹が空いた」

私の腹は大騒ぎだ。痛いけどお腹も空いている。
今感じている痛みも尋常じゃない。顔を歪めるほどの痛みは初めてだ。お菓子を食べるのをやめてクスリを飲むことにした。クスリを飲む間隔が狭くなり、使用量は超えている。

「クスリ……」

クスリを出して、ペットボトルの水を飲む。少しだけ我慢をすれば痛みは和らぐはずだ。
私の予想ではもうしばらくすると、社長は仕事を終わせるだろう。
必死に痛みに耐えながら、仕事をしていたが、少しはクスリが効いたようで、さっきまでの痛みはない。

「もう終わる頃かしら」

時計は9時をさす。さすがに終わらないとおかしい。様子を見に行こうとしたとき、社長が部屋から出てきた。

「お疲れ様です」
「送って行こう」
「いいえ、電車で出勤いたしましたし、送って頂かなくても結構です。ご配慮ありがとうございます」

でも社長は私の言うことなどまったく聞かず、勝手にパソコンをシャットダウンして、私の手を引いた。

「帰るぞ」
「あ、あの!……あ、バッグ!」
「どこだ」
「デ、デスクの引き出しです」

手は繋いだままなので、社長に振り回されるようになっている。あっという間の出来事で、エレベーターを乗り込むと、駐車場へ向かった。

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