5時からヒロイン
「様子の見すぎですよ! 何か言ってくれれば良かったじゃないですか。一人で悩んでたんです。私だって、あんなことをしてしまったのは初めてだし、社長だし、どうしようって。悩んで、悩んで、どうしようもなくて」
「それは確かに男らしくなかった。日がたつにつれ、だんだんと言い出しにくくなってしまったのは確かだ。本当にすまなかった」
「許しません」
ふん。と頬を膨らませてそっぽを向いた。本当に怒っている。
リーダーシップがあって男気があって、頼れる上司、男だと思っていたけど、少し情けない。私から聞かせるなんて、男の風上にもおけないわ。
「退職を言われたときは、頭が真っ白になったぞ。俺を惑わせるのは沙耶だけだな」
もしかして私は、意識していない所で、社長を振り回していたのだろうか。
「辞めますよ、絶対に辞めます」
これだけ私を社長として見なくていいと思うと、末っ子気質が出てくる。甘えて、駄々をこねるのは得意だ。
「悪かった、本当に悪かったな。上司であることを忘れるほど、俺は理性を飛ばしてしまったようだ」
いつでも冷静な社長の理性を飛ばせるなんて、もしかして魔性の女なんじゃない?
「社長……」
「俺も男で人間だったというわけだ」
ふっ、と照れ臭そうに笑って、泣きじゃくる私の涙を拭いてくれる社長は、社長の顔をしていなかった。
「辛い思いをさせてしまって悪かった。……俺は、ずっと沙耶を愛していた」
社長から五代真弥になった瞬間だった。そして私は秘書から恋人へ、妄想じゃなく現実になったというわけだ。
この言葉をどれだけ言って欲しかったか。まさか幻聴じゃないでしょうね。それだけは勘弁してほしい。もう我慢しなくていい、好きな気持ちも、会いたい気持ちも、抱きしめたい気持ちも。
社長は私を抱き寄せ、顔がゆっくりと近づく。鼻先が少し触れ、唇が重なるとき、一瞬の躊躇いがあって、「愛している」と囁いた。まるで恋愛ドラマのヒロインみたいに、ロマンチック。柔らかい唇が触れた時、全身から好きがあふれ出る。どんな胃薬よりもキスが特効薬だ。社長の首に腕を回して、激しくキスを求めるけど、腕に刺した点滴が邪魔をする。もっと、もっとキスをして欲しい。7年分のキスが欲しい。
社長とのキスは2回目かもしれないけれど、記憶がないから今のキスをファーストカウントにする。
「痛かっただろう。こんなことになってしまって、胸が痛むよ」
「社長のせいですから」
「その通りだ。早く元気になって、好きなだけ俺を責めろ」
そんな優しい目で責めろと言っても、出来るわけがない。仕事でしか私達を繋いでいる物がなかったのに、突然恋人の関係になるなんて、こうしている今だって、信じられない。
ただ分かっているのは、ハプニングはあったにしろ、恋人同士になったと言うことだ。本当に嬉しい。諦めなくて良かった。仕事も辞めなくて良かった。いや、それはどうだろう。
「私、辞める宣言しちゃいましたけど」
「そんなこと言ったか? 有休は聞いた覚えがあるが」
とぼけることも出来るなんて知らなかった。
「社長がなんだか変だって思ってはいました。私もこれで納得がいきました。いつになく視線を感じていて、気が付くと、いつも見られているような気がして、どうしたんだろうと思ってたけど、私の様子を窺ってたんですね」
「そうだ、それに……」
「それに?」
「見つめずにはいられなかった」
撃沈だった。腰砕けとはこのことを言うのだろう。私はもう腑抜け状態になって、社長の胸に倒れ込む。
「いくらしても足らないな」
キザなことを言って、私の唇を塞いだ。
「それは確かに男らしくなかった。日がたつにつれ、だんだんと言い出しにくくなってしまったのは確かだ。本当にすまなかった」
「許しません」
ふん。と頬を膨らませてそっぽを向いた。本当に怒っている。
リーダーシップがあって男気があって、頼れる上司、男だと思っていたけど、少し情けない。私から聞かせるなんて、男の風上にもおけないわ。
「退職を言われたときは、頭が真っ白になったぞ。俺を惑わせるのは沙耶だけだな」
もしかして私は、意識していない所で、社長を振り回していたのだろうか。
「辞めますよ、絶対に辞めます」
これだけ私を社長として見なくていいと思うと、末っ子気質が出てくる。甘えて、駄々をこねるのは得意だ。
「悪かった、本当に悪かったな。上司であることを忘れるほど、俺は理性を飛ばしてしまったようだ」
いつでも冷静な社長の理性を飛ばせるなんて、もしかして魔性の女なんじゃない?
「社長……」
「俺も男で人間だったというわけだ」
ふっ、と照れ臭そうに笑って、泣きじゃくる私の涙を拭いてくれる社長は、社長の顔をしていなかった。
「辛い思いをさせてしまって悪かった。……俺は、ずっと沙耶を愛していた」
社長から五代真弥になった瞬間だった。そして私は秘書から恋人へ、妄想じゃなく現実になったというわけだ。
この言葉をどれだけ言って欲しかったか。まさか幻聴じゃないでしょうね。それだけは勘弁してほしい。もう我慢しなくていい、好きな気持ちも、会いたい気持ちも、抱きしめたい気持ちも。
社長は私を抱き寄せ、顔がゆっくりと近づく。鼻先が少し触れ、唇が重なるとき、一瞬の躊躇いがあって、「愛している」と囁いた。まるで恋愛ドラマのヒロインみたいに、ロマンチック。柔らかい唇が触れた時、全身から好きがあふれ出る。どんな胃薬よりもキスが特効薬だ。社長の首に腕を回して、激しくキスを求めるけど、腕に刺した点滴が邪魔をする。もっと、もっとキスをして欲しい。7年分のキスが欲しい。
社長とのキスは2回目かもしれないけれど、記憶がないから今のキスをファーストカウントにする。
「痛かっただろう。こんなことになってしまって、胸が痛むよ」
「社長のせいですから」
「その通りだ。早く元気になって、好きなだけ俺を責めろ」
そんな優しい目で責めろと言っても、出来るわけがない。仕事でしか私達を繋いでいる物がなかったのに、突然恋人の関係になるなんて、こうしている今だって、信じられない。
ただ分かっているのは、ハプニングはあったにしろ、恋人同士になったと言うことだ。本当に嬉しい。諦めなくて良かった。仕事も辞めなくて良かった。いや、それはどうだろう。
「私、辞める宣言しちゃいましたけど」
「そんなこと言ったか? 有休は聞いた覚えがあるが」
とぼけることも出来るなんて知らなかった。
「社長がなんだか変だって思ってはいました。私もこれで納得がいきました。いつになく視線を感じていて、気が付くと、いつも見られているような気がして、どうしたんだろうと思ってたけど、私の様子を窺ってたんですね」
「そうだ、それに……」
「それに?」
「見つめずにはいられなかった」
撃沈だった。腰砕けとはこのことを言うのだろう。私はもう腑抜け状態になって、社長の胸に倒れ込む。
「いくらしても足らないな」
キザなことを言って、私の唇を塞いだ。