5時からヒロイン
「なるほどな」
今だって、戦闘服のスーツを着ているけど、足元はスニーカーだ。それは仕方がないことだけど、やっぱりハイヒールは年をとっても履いていたい。
恨めしそうに見ていた私の手を引いて、社長は売り場の中に入って行った。
「あんなに高いヒールで、よく歩いていたもんだ。いつも、転びやしないかとハラハラしてたが、やっぱり転んだな」
転んだ原因は言えませんけどね。
「……すみません」
ルブタンはヒールの形が良くて、足首からふくらはぎに向かって、立ち姿がとても素敵に見える。最初のボーナスで買うと決めてから、何足か買い足して大切に履いて来た。
物欲しそうに見ていたわけじゃないけど、その場を離れない私の手を引いて、店舗の中に入って行く。
「あんなに高いヒールじゃなくたって、低い靴だってあるじゃないか」
「だって、ヒールの綺麗さがルブタンの売りなんですよぅ」
口を尖らせていう私の唇を、社長は指でつまんだ。そんなお茶目なことをするの? だったら社長といるときは、しっかりした水越沙耶じゃなくて、末っ子甘えん坊の沙耶でいいだろうか。
確かにヒールの低い靴もたくさんある。甲のところに、さりげなくリボンがついた靴がものすごく可愛い。足のことを考えたら、もうあのハイヒールは履けないだろうし、気張る必要もなくなったから、デザインの変更もいいかも。ルブタンも私の分岐点だ。
「それが気に入ったか?」
「かわいい」
「いいんじゃないか? 履いてみたらいい」
社長は知らない。この靴の価値と値段。
「気に入った、買います」とすぐに即決できる金額じゃない。
「サイズは?」
「24.5センチ……です」
日本人に一番多い、23・5センチと言えたらどんなにいいか。私の身長からして25センチくらいはあってもおかしくない。そこは足が小さくて良かったと、良い方に考える。
社長が近くにいた店員にサイズを伝え、パンプスを持って来る。
鏡の前でパンプスに足を通すと、シンデレラがガラスの靴を履くみたい。
すっと靴に吸い込まれる私の足。可愛いデザインになっても、なんて綺麗なの?
「どうだ? 履きやすいのか?」
「ぴったりです。可愛い」
テンションがあがっている私は、鏡の前で横を向いたり、後ろを向いたりして足元を見る。本当に可愛い。
「じゃあ、これを……五代だが、まとめておいてくれないか。名前を言えば分かる」
「畏まりました」
伝家の宝刀がでた。社長はこのデパートを贔屓にしていて、年に何回もする贈り物も全て、このデパートから調達している。もしかしたら、プライベートでも使っているのかもしれない。
「社長……」
「さあ、次にいくぞ」
ここで買う買わないの押し問答は、社長に恥をかかせてしまうことになる。ここは一旦、何も言わず黙っていることにする。
社長は買い物の目的が決まっていたようで、迷わず目的の場所へ行く。
視線を合わせる度に、にっこりと微笑んで私を喜ばせる。
笑顔って魔法だ。特に社長は笑顔が武器になる。いつでもクールに決めて、表情を出さなかった社長に、一度でいいから私に向かって笑いかけて欲しいと、どれだけ思ったか。
指を組んで手を繋ぎ、混雑しているところは腰を引き寄せられた。私は身体がふあふあして、飛んでいるみたいだった。
今だって、戦闘服のスーツを着ているけど、足元はスニーカーだ。それは仕方がないことだけど、やっぱりハイヒールは年をとっても履いていたい。
恨めしそうに見ていた私の手を引いて、社長は売り場の中に入って行った。
「あんなに高いヒールで、よく歩いていたもんだ。いつも、転びやしないかとハラハラしてたが、やっぱり転んだな」
転んだ原因は言えませんけどね。
「……すみません」
ルブタンはヒールの形が良くて、足首からふくらはぎに向かって、立ち姿がとても素敵に見える。最初のボーナスで買うと決めてから、何足か買い足して大切に履いて来た。
物欲しそうに見ていたわけじゃないけど、その場を離れない私の手を引いて、店舗の中に入って行く。
「あんなに高いヒールじゃなくたって、低い靴だってあるじゃないか」
「だって、ヒールの綺麗さがルブタンの売りなんですよぅ」
口を尖らせていう私の唇を、社長は指でつまんだ。そんなお茶目なことをするの? だったら社長といるときは、しっかりした水越沙耶じゃなくて、末っ子甘えん坊の沙耶でいいだろうか。
確かにヒールの低い靴もたくさんある。甲のところに、さりげなくリボンがついた靴がものすごく可愛い。足のことを考えたら、もうあのハイヒールは履けないだろうし、気張る必要もなくなったから、デザインの変更もいいかも。ルブタンも私の分岐点だ。
「それが気に入ったか?」
「かわいい」
「いいんじゃないか? 履いてみたらいい」
社長は知らない。この靴の価値と値段。
「気に入った、買います」とすぐに即決できる金額じゃない。
「サイズは?」
「24.5センチ……です」
日本人に一番多い、23・5センチと言えたらどんなにいいか。私の身長からして25センチくらいはあってもおかしくない。そこは足が小さくて良かったと、良い方に考える。
社長が近くにいた店員にサイズを伝え、パンプスを持って来る。
鏡の前でパンプスに足を通すと、シンデレラがガラスの靴を履くみたい。
すっと靴に吸い込まれる私の足。可愛いデザインになっても、なんて綺麗なの?
「どうだ? 履きやすいのか?」
「ぴったりです。可愛い」
テンションがあがっている私は、鏡の前で横を向いたり、後ろを向いたりして足元を見る。本当に可愛い。
「じゃあ、これを……五代だが、まとめておいてくれないか。名前を言えば分かる」
「畏まりました」
伝家の宝刀がでた。社長はこのデパートを贔屓にしていて、年に何回もする贈り物も全て、このデパートから調達している。もしかしたら、プライベートでも使っているのかもしれない。
「社長……」
「さあ、次にいくぞ」
ここで買う買わないの押し問答は、社長に恥をかかせてしまうことになる。ここは一旦、何も言わず黙っていることにする。
社長は買い物の目的が決まっていたようで、迷わず目的の場所へ行く。
視線を合わせる度に、にっこりと微笑んで私を喜ばせる。
笑顔って魔法だ。特に社長は笑顔が武器になる。いつでもクールに決めて、表情を出さなかった社長に、一度でいいから私に向かって笑いかけて欲しいと、どれだけ思ったか。
指を組んで手を繋ぎ、混雑しているところは腰を引き寄せられた。私は身体がふあふあして、飛んでいるみたいだった。