5時からヒロイン
「なんでも揃ってるんですね」
急須まであったのにはびっくりした。お茶の葉があるのだから、急須もあるだろう。それにしても、男の一人暮らしでここまで揃っているのは、珍しいんじゃないだろうか。
「昔はホームパーティーをしたりしてたからな。最近は忙しくてやらなくなったが」
「ホームパーティー……」
セレブにしか言えない言葉だ。
「親しい友人が来るだけだけどな」
「そうなんですね」
電気ケトルで沸かしたお湯を湯飲みに入れて、温める。急須に茶葉を入れて、湯飲みのお湯を急須に入れる。一分ほど葉が開くのを待って、湯飲みに注ぐ。
「そうやって丁寧に淹れてくれていたんだな」
「私に出来るのはこれくらいですから」
「毎日、美味しかった。コーヒーもお茶も」
「美味しいって言ってくれるのが嬉しくて、張り切ったんですよ?」
湯飲みを持って、リビングに移動すると、社長はやっぱり美味しいと言ってくれた。そして言葉だけじゃなく、キスのご褒美もくれる。
「沙耶がいなかったとき、秘書課で気を使ってお茶とコーヒーを淹れてくれたけど……」
美味しくなかったとは言えないのね。
「私の味に馴染んでいるからですよ。他の子たちが淹れたお茶も美味しいですよ」
「そうだな」
こんなにゆっくりとお茶を飲んだのはいつ以来だろう。二人で並んでテレビを観ているだけなのに、なんていう至福のときなんだろう。
「風呂に入って休んだらどうだ? 退院したばかりで連れまわしてしまったから、疲れただろう?」
確かに入院中は寝てばかりで、筋肉が落ちていた。歩くときにしっかりと地面を踏んでいる感覚がなかったし、なんだか眩暈に似た感じすらあった。きっと横になってばかりで、平衡感覚がおかしくなっていたのだろう。
平日で空いていたとは言っても、人混みは疲れる。
「社長がお先にお入りになってください」
主である社長が先に入るのが、筋というもの。私が先になど入れるわけがない。
「大丈夫だ、バスルームはもう一つある」
「え!?」
まだマンションの室内を全部見たわけじゃないけど、確かに広い。バスルームが二つあってもおかしくはない。
「ゲストルームがあって、そこにバスルームがあるんだ」
「ほう……」
おじいちゃんのように返事をしてしまった。この家はゲストルームというのがあるのか。
あの日の朝、忘れもしないマンション内での迷子。慌てて走り回ったから、どんな間取りになっているか全然分からないけど、相当広いことだけは分かる。
「あとで部屋を案内するよ」
「はい」
「バスルームに案内するから来なさい」
「はい」
社長に買ってもらった、ランジェリーや化粧品を持ってついて行く。
まるで仲居さんに大浴場まで、案内されている旅行者のよう。
「ここがバスルームだ。使い方を教えよう」
「うん」
バスルームは、ブラウンが基調のシックな内装だった。脱衣所ってなんていうのか知らないけど、全部大理石だ。ううん、ここだけじゃない、このマンションの廊下やキッチン、リビングだって床は大理石だった。
本当に高級マンションって何から何まで高級なんだ。お上りさんのようにキョロキョロしていると、社長が私を呼んだ。
「沙耶」
「は~い」
「このスイッチを押したらジャグジーになるから」
「すごい……」
楕円の浴槽なんて初めて見た。それに窓が大きくて、バルコニーは庭みたいになっている。旅館でもなくマンションで、人の目を気にせず外を見ながらお風呂に入れるなんて、本当にすごい。
「ゆっくり入りなさい」
「はい、ありがとうございます」
急須まであったのにはびっくりした。お茶の葉があるのだから、急須もあるだろう。それにしても、男の一人暮らしでここまで揃っているのは、珍しいんじゃないだろうか。
「昔はホームパーティーをしたりしてたからな。最近は忙しくてやらなくなったが」
「ホームパーティー……」
セレブにしか言えない言葉だ。
「親しい友人が来るだけだけどな」
「そうなんですね」
電気ケトルで沸かしたお湯を湯飲みに入れて、温める。急須に茶葉を入れて、湯飲みのお湯を急須に入れる。一分ほど葉が開くのを待って、湯飲みに注ぐ。
「そうやって丁寧に淹れてくれていたんだな」
「私に出来るのはこれくらいですから」
「毎日、美味しかった。コーヒーもお茶も」
「美味しいって言ってくれるのが嬉しくて、張り切ったんですよ?」
湯飲みを持って、リビングに移動すると、社長はやっぱり美味しいと言ってくれた。そして言葉だけじゃなく、キスのご褒美もくれる。
「沙耶がいなかったとき、秘書課で気を使ってお茶とコーヒーを淹れてくれたけど……」
美味しくなかったとは言えないのね。
「私の味に馴染んでいるからですよ。他の子たちが淹れたお茶も美味しいですよ」
「そうだな」
こんなにゆっくりとお茶を飲んだのはいつ以来だろう。二人で並んでテレビを観ているだけなのに、なんていう至福のときなんだろう。
「風呂に入って休んだらどうだ? 退院したばかりで連れまわしてしまったから、疲れただろう?」
確かに入院中は寝てばかりで、筋肉が落ちていた。歩くときにしっかりと地面を踏んでいる感覚がなかったし、なんだか眩暈に似た感じすらあった。きっと横になってばかりで、平衡感覚がおかしくなっていたのだろう。
平日で空いていたとは言っても、人混みは疲れる。
「社長がお先にお入りになってください」
主である社長が先に入るのが、筋というもの。私が先になど入れるわけがない。
「大丈夫だ、バスルームはもう一つある」
「え!?」
まだマンションの室内を全部見たわけじゃないけど、確かに広い。バスルームが二つあってもおかしくはない。
「ゲストルームがあって、そこにバスルームがあるんだ」
「ほう……」
おじいちゃんのように返事をしてしまった。この家はゲストルームというのがあるのか。
あの日の朝、忘れもしないマンション内での迷子。慌てて走り回ったから、どんな間取りになっているか全然分からないけど、相当広いことだけは分かる。
「あとで部屋を案内するよ」
「はい」
「バスルームに案内するから来なさい」
「はい」
社長に買ってもらった、ランジェリーや化粧品を持ってついて行く。
まるで仲居さんに大浴場まで、案内されている旅行者のよう。
「ここがバスルームだ。使い方を教えよう」
「うん」
バスルームは、ブラウンが基調のシックな内装だった。脱衣所ってなんていうのか知らないけど、全部大理石だ。ううん、ここだけじゃない、このマンションの廊下やキッチン、リビングだって床は大理石だった。
本当に高級マンションって何から何まで高級なんだ。お上りさんのようにキョロキョロしていると、社長が私を呼んだ。
「沙耶」
「は~い」
「このスイッチを押したらジャグジーになるから」
「すごい……」
楕円の浴槽なんて初めて見た。それに窓が大きくて、バルコニーは庭みたいになっている。旅館でもなくマンションで、人の目を気にせず外を見ながらお風呂に入れるなんて、本当にすごい。
「ゆっくり入りなさい」
「はい、ありがとうございます」