5時からヒロイン
社長が出て行くと髪と身体を洗って、子供がプールに飛び込むように湯船に入る。

「スイッチオン」

指でジャグジーのスイッチを押すと、ジェット噴射が私の身体を刺激した。
入院で摂生した食事のせいで、体重が落ちてしまっていた。病気で痩せたのは喜べない。

「おっぱいが小さくなっちゃった」

なんで体重が減る時は胸からなのだろう。むぎゅっと自分の胸を掴んで、持ち上げるけど、やっぱり小さくなっている。今日だって、ブラジャーを買う時にサイズがダウンしていて、涙が出そうだった。でもすぐに体重は戻るだろうと予測して、いつものサイズを買った。

「小さくなったおっぱいは嫌いかな?」

社長がしっている私のおっぱいは、もっと丸い椀型だ。だけど今のおっぱいは滑り台みたいになっている。

「おっぱいが元に戻るまでセックスしたくない」

形がいいのが自慢だったけど、見る影もない。たったの一週間だったけど、人間の身体って変わるのが早いんだな。
窓から見える夜景は、都会が明るすぎて星も見えない。でもここが東京だということを、忘れさせてくれるには十分な景色だ。

「しあわせ」

想いを告げられない、もどかしい思いをしていたけど、今は本当にしあわせ。
ぼーっとそんなことを考えて夜景を見ていたら、全然出てこない私を心配して、社長が私を呼んだ。

『沙耶』
「どこ!?」

キョロキョロとしたが、ジャグジーのスイッチがある所にスピーカーがついていた。そこから社長が呼んだのだ。

「はい」
『のぼせるぞ』
「もう出ま~す」

旅行に来てるわけじゃないから、社長の家にいる間はずっと入れる。フランスレースが贅沢に付いたランジェリーをつけ、みんなからお見舞いに頂いた、イチゴのパジャマを着て社長のところへ急いだ。


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