5時からヒロイン
社長は尽くす男なのか、それとも病人を気遣ってなのか、お風呂から出てリビングへ行くと白湯まで用意されていて、大切にされているんだと涙が出そうになった。
社長もお風呂を済ませていたようで、パジャマ姿でいた。初めて見る風呂上がりの姿と、髪がおろされ、さらさらな髪が何て素敵なんだろう。
うっとりしていると、寝室に連れて行かれた。
この部屋は私にとって鬼門。忘れることなんか出来るはずもなく、なんとなく暗い気分になってしまう。
ダブルのベッドは部屋の中心に配置されてたのか。ここにも大画面テレビがあったんだ。天上はステキなガラスの照明が下がっていて、温かな柔らかい灯りが、寝室にあっている。
あの時は無我夢中だったから、周りを観察する余裕なんかなかった。
ベッドのサイドには同じサイドチェストとスタンドが置かれていて、本当にホテルみたい。
今はきちんとされているけど、あの時は私の下着が散乱していて、乱れたベッドと共に、情事の終わりって感じだった。

「きゃ……!」

感傷に浸っている私を、社長が抱き上げた。
何を考えているか分かったのだろう。ベッドにそっと降ろして、布団をかけてくれる。

「まだ眠たくないです」
「映画でも観るか?」
「観たくないです」
「じゃあ、テレビは?」
「観たくないです」
「じゃあ、こうしよう」

わがままを言っている私に、腕枕をして胸に抱きしめてくれた。

「これでいいだろ?」
「うん」

駄々もこねて甘えて、それを受けてくれるなんて信じられない。
社長はあやすように頭をなで、優しく抱きしめる。言葉なんていらない、ずっとこうしていたい。
身体の隅々まで愛して欲しいけど、今の私の身体は受け入れることが出来ない。もどかしくて仕方がないけど、万全の態勢で社長の愛にこたえたい。
ものすごく安心する社長の腕の中。身を任せていると、ゆっくりと眠気がやってきた。

「おやすみ」

やさしい声とキスが合図となって、私はいつの間にか眠っていた。

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